黒ノ十三

【くろのじゅうさん】

ジャンル サウンドノベル
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対応機種 プレイステーション
発売・開発元 トンキンハウス
発売日 1996年9月27日
定価 5,800円
廉価版 ベストプライス
2000年6月1日/2,500円
判定 なし
ポイント 13本のホラーノベルオムニバス
重度の鬱シナリオが含まれる



13の身震い、さしあげます。



概要

人気作家・綾辻行人氏が監修を務めたホラーノベル。
本作には複数の執筆者からなる十三編の、それぞれに“形”の異なる「恐怖」の物語が収められている。
※説明書より一部引用


特徴

  • シナリオは全部で13本
    • ゲーム開始時点では4本のみ解放されている。そのシナリオを全て読むと4本ずつ新たなシナリオが解放されていき、12本の物語を読むと綾辻氏原作の最終シナリオ「鉄橋」がプレイできる。
    • 各シナリオのジャンルは、不気味な話・不思議な話・不条理系など様々だが、いずれもメインテーマは「恐怖」であり、ハッピーとは言えない結末を迎えるものが多い。
  • シナリオの途中には選択肢(常に3択)が登場する。なお、正解はいずれの場合も1つだけで、残りの2つを選ぶと必ずゲームオーバーとなる。いわゆる即死ゲー。
    • バッドエンドの内容については、むしろ正規終了の結末よりも平穏であったり、ギャグ色が強かったりするものもある。
    • ゲームオーバー時には、「“黒ノ十三”(タイトルで表示される本)が呪われる」ようなムービーが流れる。意外に種類が多い。

評価点

  • 大元のコンセプトである恐怖を正面から描いた作品は評価の高いものが多い。
    • 中でも「羽音」というシナリオは全作品中でも非常にインパクトの強い内容である。気分が悪くなるとさえ言われるその凄まじさは、本作を鬱ゲーとして有名なものにした。
+ 羽音シナリオ・ネタバレ

シナリオは、女子学生である主人公の一人称で進む。
同級生からイジメを受け、エスカレートした果てにゴキブリを食べさせられた主人公。
虫の羽音の悪夢に悩まされる毎日が続き、現実でも追い詰められて、最後には大好きだった母親に包丁で殺害される。
にわかには信じがたい状況…そこで主人公は、自分の死の真相を思い出す。
いじめに耐えかねた主人公は自殺を考えたが、その勇気もなかったので、母親に殺してもらったのだった。
これらを意識している主人公は、つまり最初から死人だったのである。
しかも、「その後、主人公の死体は自室の壁に埋め込まれ今もゴキブリに食われ続けている」という描写まである。
そして、ラストシーンで主人公の残留思念は再びシナリオ冒頭へ戻る。
生前の記憶とゴキブリの悪夢と母親に惨殺される激痛に永遠に苦しみ続ける、悲惨なループオチで物語は締められる。
最後まで、一切の救いも逃げ道もない。

  • BGMの質は良く、種類も多い。サウンドテストも用意されている。

賛否両論点

  • シナリオの評価はものによってまちまちであり、読後感も含めた完成度を高く評価されているシナリオもあれば、練り込みの浅いシナリオもある。
    • 全体については「出来の差が激しい」と言われやすく、良くも悪くも複数ライター制にありがちな評価となった。
  • ゲームオーバー展開についても、本来の物語とはまた違った恐怖を味わえる良作から、「何事もなく朝を迎えました」「あなたは死にました」といったやっつけ仕事まで玉石混淆。

問題点

  • 最終シナリオの「鉄橋」は尻切れトンボな内容。全シナリオの中でも恐らく最も評判が悪い。
    • この作品は綾辻行人氏の短編集「眼球綺譚」の一編であり、この本の読者からは評価が低い訳では無い。にもかかわらず何故『黒ノ十三』からこの作品を知ったユーザーからの評価が低いのかと言うと、作品全体にある仕掛けを「鉄橋」単体では理解出来ないからという事に尽きる。
      • 全七篇あるそれぞれのエピソードは全て独立しているのだが一つだけ共通する事があり、それは"咲谷由伊"という人物が毎回立場を変えて何らかの形で異常な出来事に関わるという事。
        この本を通しで読む分には、その咲谷由伊が異常な存在であるということを読者も理解しているので、次はどのように咲也結衣が出てくるのか尾切トンボな結末もある程度納得した上で鉄橋も恐怖小説として読むことが出来るのだが、最終シナリオとして「鉄橋」単体で出されても、この前提がないので(どう咲也結衣が絡むのかは伏せるが)ひたすら唐突感が残るだけで終わってしまう。
    • 監修である以上プレイヤーは綾辻行人氏の書下ろしを期待してプレイしていると思われるので、再録な時点で肩透かし感は否めないが、当時の最新短編集だった「眼球綺譚」から選ばなければならない事情があるにしても、表題作の「眼球綺譚」や「再生」「バースデープレゼント」など「鉄橋」よりサウンドノベル映えして且つ単体で成立し、最終エピソードを飾るに相応しいエピソードがあっただろう。
  • シナリオ中は選択肢を選ぶシーンでしかセーブできない。正解の選択肢を完璧に推察できるタイプのストーリー運びではない上、ゲームオーバーになるとセーブデータの読み込み直しから始める仕様であるため、ポイントごとのセーブが必須。
    • 実質分岐しないシナリオであることから、バッドエンドの存在は「テンポを悪くしている」と評されることも。
  • 選択肢が出ても一度方向キーを押さないと入力ボタンが押せないといった配慮が無いので、ボタン連打や長押しで読み進めているとセーブする前に勝手に選択肢を選んでしまう事故が頻発しやすい。
  • クリアしたシナリオの再読は可能だが、「鉄橋」が出現すると、もうそのデータでは再読は不可能となる。
    • メモカのセーブデータに「長時間プレイありがとうございます」というメッセージが付く仕様にするなど、妙なところだけ凝っている。

総評

様々な角度から様々な恐怖を描いた本作は、オムニバスホラーノベルとしての立脚点に忠実な出来に仕上がったと言える。
救いのない結末も含めて1つの物語として描き切る方向性などから『世にも奇妙な物語』となぞらえられることもあり、マイナーながらファンからは愛されている作品である。
システム面の不親切さとそこからくるテンポの悪さがサウンドノベル作品としての快適性を損なっていること、練り込みの浅いシナリオが含まれていることなど、良作として扱うには幾分疑問が残るものの、画像の枚数やBGMの種類は多く、気に入る物語に出会える可能性は高い。
ADVゲームの好きな人なら、大いに触れてみる価値があるだろう。


余談

  • 後に綾辻氏は本作について「自分はほとんどノータッチだった」と関与を否定している。
  • 2010年頃、匿名掲示板に元・開発スタッフの一員を名乗る人物による当時の内情暴露の書き込みが行われた。
    • それによると企画当初は、綾辻氏によるシナリオ書き下ろしのゲームとなる予定であったが、肝心の原稿が期日までに上がらなかったため他のプロライターに外注し、残りのシナリオはやむなく現場の開発スタッフが分担して書き上げ、綾辻氏は監修扱いになったとの事。
      • ログのない匿名掲示板の書き込みでありネット上に矛盾する情報も存在する為、いささか信憑性に欠ける話だが、わざわざこのゲームの開発スタッフを騙る理由も少なく、またその書き込み主は当時開発に関わっていた証拠として「ゲームデータの空き容量に開発スタッフが踊るムービーを仕込み、ある選択肢であるコマンドを入力する事で見られるようにしたが誰にも発見されなかった」と言う情報を挙げていた。
      • 解析の結果、開発スタッフが登場するムービーが仕込まれているという点に関してはどうやら事実のようである(参照)。

        のちに証言とは少し異なるがゲーム内でもエンディングで「The Beginning」の表示が出たあと、LR1・2と〇×□ボタンを20秒間押すことで観られることが判明した。

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最終更新:2023年12月15日 15:14