PARTS

【ぱーつ】

ジャンル ノベル
対応機種 Windows 95/98
発売・開発元 スクアドラ・ディ
発売日 1999年11月26日
定価 8,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
判定 なし
ポイント 類似作品がほぼない重いテーマ
どうあがいても鬱


僕を構成するPARTSが……足りない。

概要

アニメ・萌え系グッズのショップであったペーパームーンが「スクアドラ・ディ」ブランドで発売したデビュー作。
主人公は人里離れた施設で、2人の少女の話し相手となる。
ヒロインはその2人のほか、主人公の妹(故人)にうり二つの少女が登場しこの3人に個別ルートがある。

あらすじ

主人公崇宏は学校の長期休暇中、父親が勤めている、とある新興宗教の「ファーム」と呼ばれる施設でのバイトを持ちかけられる。
ファームには男はエルニーニョ、女はラニーニャと呼ばれる少年少女たちが生活しており*1、彼/彼女たちはいずれ「神の国」へ赴く存在としてあがめられているという。
バイト内容は施設に暮らしている2人のラニーニャの話し相手になること。
その施設が何のために存在しているのか、何も知らないまま崇宏はバイトを引き受けるが……。

キャラクター

  • 的場崇宏……主人公。ファームで医師として働く父親からバイトを持ち掛けられ、ファームを訪れ3人の少女と出会うことになる。
  • コエダ……バイトの対象の一人。香澄というカブトガニのぬいぐるみを常に抱えており、寡黙で幼げな印象の少女。
    • 実は不定期に訪れる男に慰み者にされている。
  • マキ……バイトの対象の一人。明るく元気な少女。
  • S037(ナミ)……ファームで「シスター」として働く少女(服装はメイド服調だが)。元はラニーニャであったらしいがある理由で格下げになった。事故死した崇宏の妹・奈美にうり二つの外見で、崇宏はナミと呼ぶようになる。
  • 美川冴子……崇宏の父同様ファームに勤務する医師。
    • 某SFサスペンスドラマの封印回の登場人物から名前を拝借している(彼女の部屋のドアに下がっている「る・それいゆ」の表札は分かる人には分かるネタ。別に洋服や怪しげな装置を作っているわけではないが)。

鬱要素

+ 「神の国」とは

実はエルニーニョ・ラニーニャとも「クライアントの遺伝的問題を解消した、いずれ臓器を摘出するためのデザイナーズクローン」である(ファームというのも文字通り「養殖場」を意味している)。
そもそも教祖となっている人物がヒトクローンの研究をしたいがために適当な宗教をでっちあげ、金持ちの顧客を集めてこのシステムを作り上げたという経緯で、現在の教祖自身も何度も代替わりを繰り返した元の教祖のクローン。
「神の国へ行く」とは、エルニーニョ・ラニーニャがオリジナルに移植する臓器を取り出され(実質全身解体)死ぬことに他ならない。

  • コエダ……オリジナルの遺伝性疾患を完全に解消できず、移植ができないままオリジナルは死亡。コエダを訪れては凌辱していく男はコエダのオリジナルの元婚約者であり、暴行は婚約者を失ったことの八つ当たりである。
    コエダを連れてファームから脱走するルートでは、最終的にその遺伝性疾患でコエダを失うことになる。
    • なお、コエダが男の慰み者にされていることが分かった後の選択肢で処女厨をこじらせると、別な意味でコエダを失うことになる。
    • ちなみに「クローン」とは小枝を意味するギリシャ語に由来する言葉で、コエダの名はそこから取られている。ある意味名前自体がネタバレ。
  • マキ……コエダやナミとは違い、オリジナルの先天性心疾患を克服している。が、それはすなわちいずれオリジナルに心臓を提供し彼女自身は死ぬことを意味する。
    • 「移植臓器に提供者の記憶や意思が宿る」という都市伝説がシナリオに使われている。
  • ナミ……奈美のデザイナーズクローンとして作られたが、コエダと同様遺伝性疾患(部位は心臓)を解消できなかったうえ、奈美が移植前に事故死したことで存在意義を失う。普段はシスターとして働きつつ、施設職員の性処理の相手もさせられている。
    • 実は崇宏も遺伝性疾患を持っており、崇宏のエルニーニョも存在しているがまだ幼く移植には適さない。父親が崇宏にバイトを持ちかけたのは心臓が限界を迎えつつあるナミをその代わりに使い、バイト中に臓器移植を行うつもりでのことだった。
      • このことを教祖から聞かされたナミが自ら「神の国へ行く」ことを選択するエンドもある。

ナミルートのバッドエンドが極めつけの鬱エンド。

+ 振り返っちゃ……いけないよ……
  • ファームの真実を知った崇宏はナミとの脱走を企てるが失敗。ナミが輪姦されるさまを見せつけられた後、ファームの研究員として協力すると誓うまで監禁される。
  • 監禁の間、美川から実に楽しそうにコエダとマキの解体を告げられる。
  • 結局首を縦に振らなかった崇宏の元へ父親がやってくる。実は父親もナミに奈美を重ねており、崇宏を取るかナミを取るかで板挟みになっていたのだ。その二つをともに叶える、悪魔的な解を父親は実行する……。
  • 黄昏のような世界、死んだはずのコエダやマキとの再会(プレイヤーは知っているが崇宏は知らないはずのコエダ・マキ個別ルートのエピソードが少し改編された形で挿入される)。冒頭の「僕を構成するPARTSが……足りない。」の句の意味が明らかに……。

評価点

  • 重いテーマを正面から扱っており、ストーリー展開はずしりと来るものがある。
  • 絵に癖はあるがヒロイン3人ともロリロリした顔立ち・体型であり、趣味が合えばその筋の方にはたまらないだろう。

賛否両論点

  • ナミルートは多様な分岐を持つが、結局崇宏と結ばれる展開はない。
    • エロゲーとしては問題点だが、崇宏が奈美に妹以上の感情を抱いていたわけでもなく、ナミには妹の姿を重ねて守ろうとしたわけで、攻略対象キャラだからといって安易にそういう展開に走らなかった姿勢は人間的に評価でき、賛否両論。

問題点

  • どうあがいても鬱の、容赦のない鬱ゲーなので激しくユーザーを選ぶ。
    • クソゲーではないにもかかわらずプレイして後悔することがままある。鬱ゲー全般に言えることではあるが、深く考えずに他人にプレイを勧めるなど当然もっての外。
  • ファームを運営する団体についての記述が薄い。教義もエルニーニョ・ラニーニャを崇拝する、程度のことしかはっきりしておらず、これで宗教団体として成り立つのだろうか?という疑問が残る。
    • 崇宏自身が団体に興味を持っていないので、その辺は分からなくて当然かもしれないが。
+ マキルートでは
  • ファームの真実を知る過程で、モブのラニーニャの一人が解体される様子が描写される。直接の絵は手術台に横たわる全裸の少女、というところまでだが表現はかなりのグロ。

総評

当時はエロゲーでもシナリオ重視の作品が増えつつあった時期だが、
その中でも圧倒的な鬱展開に加えて、「どのヒロインとも幸せに添い遂げる道がない」という意味でマルチバッドエンドな本作は尖った存在と言える。
SF設定など「なんでもあり」な要素に寄りかかったところもあるが、今日でもなお重いテーマを扱ったストーリーは色あせることなくその重さを突きつける。
かなり激しくユーザーを選ぶ上に今ではソフト自体に加えて動作環境を確保するのも困難であるものの、興味があってプレイする機会があるならば一度は体験してみてほしい作品である。

余談

  • のち、マキルートだけを抽出再構成し、グラフィックも新規に描き下ろしてリメイクされた『MEMORIES ~記憶のすべてを…~』が発売されている(現在はSageブランドの扱い)。
    鬱ゲーであることに違いはないが、コエダやナミルートでの凄惨な展開がない分ダメージは少ないと思われる。
  • 本ゲーム発売から6年後、2005年にイギリスで出版された小説『Never Let Me Go』(わたしを離さないで)は本ゲームとよく似たプロットを持っている。
    • 2010年にハリウッド映画化されている。蛇足ながらこちらはハリウッドらしく特段鬱エンドではない。
    • 2016年には舞台をイギリスではなく日本に翻案したテレビドラマが放送された。
      • 放送時、本ゲームに似てるという感想もちらほらあったが知名度が低いため、星新一のショートショート「少年と両親」(1969年)を連想する感想の方が余程多かった。
  • これらの作品全てに共通する欠点ではあるが、わざわざ人間一人を丸ごと造らずとも臓器だけを培養すれば、または人間の臓器を持った動物を造れば十分な事に突っ込んではいけない。

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最終更新:2023年01月09日 04:20

*1 エルニーニョは文字通りには「男の子」だが、意味合い的には神の子[キリスト]を意味する。ラニーニャはその女性形。