虚空漂流ニルゲンツ
【こくうひょうりゅうにるげんつ】
ジャンル
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エアバトルRPG
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対応機種
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PC-FX Windows 95
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メディア
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【PCFX】CD-ROM 1枚 【Win】CD-ROM 2枚
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発売元
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日本電気ホームエレクトロニクス
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開発元
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マイクロキャビン
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発売日
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【PCFX】1996年6月28日 【Win】1997年
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定価
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8,190円
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プレイ人数
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1人
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判定
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良作
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概要
3Dシューティングとアドベンチャーをミックス、地球に隣接する「虚空世界アスガルド」を舞台に繰り広げられる壮大なSFファンタジーを描いた意欲作である。
キャッチコピーは「ニルゲンツのお話ね…」「…信じてくれなくてもいい。今は私だけの思い出だ…」
物語の始まりまで
ゲーム冒頭、とある老人の回想という形で物語は語られる。
『私の名はデュン・ビット、私は、あの空を忘れない…。』
それは50年前―たった40日間の出来事。
主人公デュン=ビットは空賊を追う賞金稼ぎ。
賞金首である「赤騎士団」を追う途中、デュンの愛機「ハーン」がエンジン不調に陥り、エーテルの海での漂流を余儀なくされる。そこをたまたま通りかかった「隊商ヴィントミューレ」に拾われ…。
システム
プレイヤーは賞金稼ぎの飛行機乗りデュンとなり、仲間達と共に冒険の旅を続ける。
基本的には仲間のクルー達との交流を描くアドベンチャーパートと、人型に変形可能な戦闘機グリュ―ヴルムを操作し、敵機を撃墜していく戦闘パートの構成を交互に繰り返すことで進んでいく。
「戦闘機を操る」ということから、戦闘はフライトシミュレーター又は3Dシューティングを想像しがちだが、実際はコマンド選択式+リアルタイム制。描写は3Dだが、PC-FXにはポリゴン機能がないため、FCやSFCで採用されているスプライトとBGで表現された疑似3Dで表現されている。
プレイヤー機であるグリューヴルムは、先に書いたように変形が可能。変形もコマンド選択で行い、「戦闘機形態(ファイターモード)」と「人型形態(ダイバーモード)」の2つを、状況に応じて巧く使い分けて行かなければならない。
評価点
世界観とストーリー
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とにかく世界観の作り込みがすごい。一見よくある「浮遊大陸、空賊物」な世界観なのだが、分厚いマニュアルにはニルゲンツの舞台である「虚空世界アスガルド」に関する世界設定とメカ設定説明がみっちり書き込まれている。それらを読むと、「この作品を築き上げるために誰がここまで考えたんだ?」と驚くことうけあい。
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キャラは敵味方問わず、端役にいたるまで魅力的(無論あざとく狙ったという意味ではない)で、声優陣の熱演がキャライメージにマッチしており、ゲーム本編には登場しきれていないような設定まである。
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そんなキャラ達の盛り上げていくシナリオも、設定負けせずよく練られている。大軸は主人公デュンとオペレーターのラインの2人を中心に「ほのぼのした序盤」から「緊迫感溢れる中盤」、「切ないストーリー終盤」そして「感動のラスト」へと進んでいく。世界を舞台に展開される余りにも感動的なストーリー。謎が謎を呼ぶミステリアスな展開、憎悪と愛、友情と情熱、各キャラに重くのしかかる過去の記憶、燃える展開、張られた伏線、次々倒れていく味方。そして最後の対決で最高に盛り上がって、燃えて、燃え尽きて、そして冒頭の老人の回想へとつながっていく…。
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このゲームのプロローグで主人公が言うセリフ「私はあの空を忘れない」が再びラストで使われるのだが、その言葉の受け取り方はゲーム開始時とは全く異なるものになる。きっとプレイヤーに忘れがたい、心に染み渡るような何かを残してくれるだろう。EDのスタッフロールが終わり、その後に出てくる1枚のグラフィックとバックの音楽まで全てが必見。
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因みにクリアしても特定条件でしか見られないイベントがあるので再プレイ必至。ラストを知った後でプレイすると、途中でちりばめられた伏線を発見し、新たな発見と感動が生まれるかもしれない。
アニメーション
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本作は要所要所でアニメが入っており、一番燃える部分を綺麗な動画で見せてくれる。
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まず、OPデモから凄い。開発は90年代中盤だが、当時としては前衛的で格好いい。
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また、戦闘時に技を出したり、イベントシーンで挿入される高画質CGアニメは必見。上手くストーリーを盛り上げている。
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ラストの長いアニメを見終わって、クレジットタイトルが流れ始めた時はもう涙なしには見られない。
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動画再生に関しては、当時の次世代機中PC-FXのみが持っていた特技「動画リアルタイム操作」をフルに活かしており、ゲームにおけるアニメーションの使い方の見事なお手本となっている。ただの垂れ流しムービーにアニメ機能を使っている多くのメーカーにはぜひ見習ってもらいたい。
戦闘システム
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このゲームのユニークな点のひとつに、戦闘システムが挙げられる。擬似3Dの本作でも3Dシューティングと同様に、「いかにして敵機に対し有利なポジションを取り撃墜するか?」がポイントとなる。
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プレイヤー機を含む各機体には「機動ポイント(いわゆる「精神的余裕」を現したモノ)」というステータスが設定されていて、戦闘中には状況に応じてこれを消費して技(=アクロバット飛行のような高度な操縦テクニック)を繰り出し、敵機の機動ポイントを減らす。機動ポイントがなくなるとパニック状態に陥り、ただ飛ぶことしか出来なくなるので、今度は敵の背後をとって撃ち落とす。色々技を試し、自分だけの必殺パターンを作り出すのが楽しい。そして強敵が相手だと、この駆け引きはさらに白熱する。
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ミサイルといった誘導兵器はないため、機関銃のみを駆使して撃墜するスリリングな格闘戦が反射神経無しでも楽しめるようになっている。プレイヤー自身の状況判断力、戦術眼が試されるシステムである。
賛否両論点
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アドベンチャー部分は基本コマンド総当りなのだが、各クルーの描写が隠しイベントになっている為、遊ぶ人によってはクルーへの感情移入がしづらい。
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あまり多くは言えないが、ストーリーはやや好みが分かれるかもしれない「映画としてはいいけどゲームとしては…」という意見もある。また、「よくある大団円」ではないので結末を知った上でまた最初からやると物悲しくて仕方ない。
難点
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良くも悪くもPC-FXという機種の特徴であるアニメの強さ、ポリゴンの弱さがよく表れている。前述の通りPC-FXにはポリゴン機能がないため、戦闘を所謂『エースコンバットシリーズ』のような普通の3Dシューティングだと思うと、ギャップに驚く。
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戦闘に関しては、敵の当たり判定がややおかしい点、スピード感が皆無な点がよく欠点として指摘されている。また、目の肥えた人には戦闘シーンは物足りないといった声も。発売当時ならばまだ違和感なく遊べたかもしれないが、流石に今プレイすると時代の流れを色々な意味で感じてしまう…。
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戦闘場面は独特のコツがいり、飲み込むまでが大変。マニュアルの戦術講座を参照し、その上で自分の戦法をあみだすことに慣れてしまえばこれといって問題にはならないが、少し難しいと感じる人もいるかもしれない。一方で慣れてしまうと、実は左サイド・右サイド・接近追尾・上昇反転(と変形)だけで攻略可能なことに気づき、一気に難易度が下がってしまう。
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また、使えない技は本当に使えないのも難点の一つ。例えば、「ルシファードライブ」はストーリー上重要な技で演出も凝っているのだが、使い勝手が悪すぎて使うと逆に弱くなる始末。
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企画・シナリオ・キャラデザ・メカデザなどを手掛けた「重戦車工房」氏(当時マイクロキャビン社員、現在イラストレーター)いわく「戦闘システムが本来の設計に満たない状態で送り出さなければならなかったのが非常に心残り」とのこと。
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アドベンチャー部分できっちり機体の弾薬補給と強化を行わないと、戦闘時に辛い目に遭う。最も注意すべき点は燃料・弾薬補給で、キチンと補給しておかないとどうしようもなくなる。救済処置も存在しないので、下手にセーブすると本当にハマリ状態になる。ラスボスでやってしまうと目も当てられない事態に。
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PC-FXの顛末をみると仕方がないのかもしれないが、解明されない謎が残ったままで続編も出ていない。
総評
PC-FXというマイナーなハードでリリースされたため知名度こそ低いが、空戦をリアルに描いた戦闘システムと練りに練られたストーリーは見事というほかなく、「PC-FXの最高傑作」と推すファンも多い薄幸の名作。
ハード、ソフト共に入手の難度が高いものの、興味を少しでも持ったなら是非プレイしてもらいたい。これをやらずして「隠れた名作は大抵やりつくした」とはとても言えないだろう。
余談
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当初のPC-FXのゲームは大きなパッケージだったが、このニルゲンツから普通のCDサイズに変更になった。そのせいで売り場で目立たなくなってしまい、売り上げ不振の一因となった。ただでさえマイナーなハードなのに…。
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「Power VR」専用だが、PC版も発売されている。評価が高かった証拠だろう。
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ドイツ語が非常に多く使われている。例えばヴィントミューレ(風車)やグリューヴルム(蛍)など。
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もともとはPC98で発売された「英雄志願」の移植が予定されていたが、後に入れ替わる形でオリジナルタイトルである本作が発表されたという経緯がある。
最終更新:2017年07月10日 00:20