逆転検事

【ぎゃくてんけんじ】

ジャンル 推理アドベンチャー
対応機種 ニンテンドーDS
発売元 カプコン
開発元 カプコン、アイ・ティー・エル
発売日 2009年5月28日
定価 5,040円
レーティング CERO:B(12才以上対象)
廉価版 NEW Best Price! 2000
2011年1月20日/2,100円
判定 良作
ポイント 成歩堂のライバルキャラである御剣が主役
シナリオライターが山崎氏に交代
作風の変化はやや賛否両論
旧キャラ優遇、新キャラはあまり目立たない
逆転裁判シリーズ


概要

逆転裁判』シリーズの人気キャラクター、生真面目でスタイリッシュな天才検事「御剣怜侍」を主人公に据えたスピンオフ作品。

前作『逆転裁判4』がシリーズファンを突き放す出来だったこと、そのまま本編に動きがないまま外伝作品が発売されることなどから、発売前は色々な意味で賛否両論であった。
また、本作は従来までのシリーズ生みの親の巧舟氏ではなく、新たに旧作のサブライターだった山崎剛氏がシナリオライター兼ディレクターを務めることから、従来シリーズとの間に違和感が生まれることを危惧する声も多かった。

しかし、いざ発売されてみると『逆転裁判』シリーズらしさを見事に備えた良作となっていた。


特徴

  • 本作には法廷での対決はなく、捜査で犯人を見つけだすことを主眼にした(シリーズとしては異色の)普通の推理アドベンチャーになっている。
    • 各シナリオは捜査パートと対決パートの2つに分かれており、「捜査パート → 対決パート → 捜査パート…」を繰り返しながら話が進んでいく。
  • 捜査パート:現場を調べたり関係者に話を聞いたりすることで事件の証拠品や手がかりを入手するパート。基本的なことは『逆転裁判』と同じだが、以下の新要素・変更点がある。
    • 1人称のADV形式から3人称視点でキャラクターを自由に操作する形式になった。とはいえ、1つの捜査パートで移動できる範囲は制限されているため、「移動範囲が広すぎて詰む」ということはない。
    • 新要素その1・ロジック。現場で得た情報を正しく組み合わせることでそこから新たな情報を見出すもので、ロジックを完成させることでシナリオが進んだり、新たな証拠品を入手できたりする。
      ロジックの組み合わせを間違えると一定量ゲージが減少する。このゲージは対決パートのゲージと共用されており、捜査パートで失敗が続くと対決パートが不利になるが、各パートをクリアすればゲージが最大値の半分まで回復するため、多少のミスはリカバリーできる。なお、『逆転裁判』と違ってゲージがゼロになると捜査パートでもゲームオーバーになる。
    • 新要素その2・ぬすみちゃん。入力した情報をもとにその場所で起きたことを立体映像で再現するもので、再現された現場の矛盾点を指摘し再構成することで現場検証を行っていく*1
  • 対決パート:ライバル捜査官の推理や関係者・犯人の証言を論破することで事件の真相に迫るパート、『逆転裁判』でいう法廷パートにあたる。捜査パートで得た証拠や証言を武器に、発言の矛盾を指摘し証拠品を突きつけて相手を追い詰める感覚は従来のものと同じである。
  • 『逆転裁判』ではオカルトなどの特殊能力を借りて証言を引き出したり弁護を補助する場面があったが、本作にはそういった超自然的な要素は取り入れられていない。

評価点

  • シナリオがボリュームアップしている。
    • 各シナリオに伏線が仕込まれていて全体が1つのストーリーになるという構成は『逆転裁判』シリーズを引き継いだものだが、本作は『逆転裁判』よりもシナリオ間のつながりが強く意識されており、個々のシナリオのボリュームも多い。
  • 登場人物もなかなか個性的な人物が多く、物語を盛り上げてくれる。
    • 主人公の御剣はキザで堂々たる天才検事だが、意外に天然ボケな一面もある。『逆転裁判』シリーズの主人公・成歩堂龍一とは全く異なる御剣のキャラクター性を、小ネタとしてではなくプレイヤー視点のメインストリームで楽しめるのは本作の大きな魅力の1つ。
    • ヒロインの一条美雲やライバル捜査官の狼士龍&シーナ、イトノコの先輩・馬堂刑事など、ストーリーの根幹にかかわる人物は評価が高い。
    • また、本作には『逆転裁判』シリーズのキャラクターが多数登場している*2が、シナリオライターの違いによるキャラクターの崩壊もほとんど見られず、今までのシリーズと同じノリで喋り、動いてくれる。それでいて過去作の内容には深入りしないように言動が上手く抑えられている。
    • 「脚立とハシゴ」など、シリーズではおなじみのネタもしっかり入っている。直接会うことはないが、成歩堂たちもとある場所に登場する。
  • グラフィック・BGMの質が向上している。
    • グラフィック面では特にキャラクターのドット絵の出来がよく、小さなグラフィックで動きや表情をよく表現している。
      • また、すべてのパートが第三者視点*3となった。キャラ全員に向きと動きが追加されたことで後ろを振り向く、向かい合って話をする、横で助言を行うなど表現の幅が広がっている。
    • BGMは『逆転裁判』シリーズと比べて「熱さが足りない」と指摘されることがあるが、静かに熱い本作の音楽群は御剣のクールなイメージとよく合っている。また、対決時のBGMが3曲に増えたことは地味にプレイヤーを驚かせた。
    • ボイス面も強化されており、今までと違ってライバル以外のキャラもボイス付で攻め立ててくる。

賛否両論点

  • 作中の時間経過(過去の回想を除く)が4日間しかない。
    • これは時系列上、『3』のエンディングから『4』で例の事件が起こるまでの2ヶ月間でしか旧シリーズのキャラクターを動かせないためである。その結果、御剣が4日間連続で『逆転裁判』並みの難事件に遭遇し、いずれの事件もほぼ1日で解決するという超人的なはたらきをしていることになり、ところどころ展開に強引な部分が見られる。
    • 時間に余裕がないと、個々のエピソードの描き込みにも限界があるのだろう。本作のシナリオは量的な意味でのボリュームは増しているものの、深みの方は少々物足りない。
    • 全5話中3話が回想という構成に加え、終わり方も若干消化不良気味。とりあえず解決したという程度であり、完全解決には至っていない。やはりわずか4日間では物語を展開させるのに限界があるということなのだろう。この辺りの伏線は次作で回収されることになった。
    • その代わり、各エピソードに今まで以上の密接な繋がりを持たせられたのは怪我の功名とでも言うべきか?
  • シナリオライターが従来の巧舟氏から山崎氏に交代しているため、御剣の性格にやや変化がある。
    • 今までのシリーズで見せた冷徹でクールな部分はあまり描かれなくなり、天然な一面がより強調されたキャラになっている。
    • 親しみやすく主人公らしい性格になったという好意的な意見もある一方で、やや違和感があるという考えの人もおり意見が分かれている。
  • 『4』からの流れだが、難易度は低めな傾向にある。
    • 謎解きが簡単すぎるというよりは、証言の矛盾が露骨だったりヒントが多かったりして答えがすぐに分かってしまうのが原因。
      • 特にヒントは証言を一巡したり捜査を終了したりと回避しにくいタイミングで表示されるため、余計に分かりやすくなってしまっている。
      • 本作ではゆさぶって追加で出てきた証言が矛盾を示している、というパターンが多い。途中からこの法則に気づきやすいのも難易度が低く感じる一因であろう。
    • 最終話の物理運動に関する問題では多くのプレイヤーを悩ませた…がそれはスタッフ側の物理の知識の不足のせいであり、意図された難所ではなかった。
    • その代わり章の区切りでゲージが回復しないため、安易な総当たりでゲージを減らしたまま進めると苦戦することになる。

問題点

  • 会話の際のエフェクト・効果音がくどく、テンポが悪い。
    • 代表例が画面のフラッシュで、追及シーンの終盤は過剰に光り過ぎて目に非常に優しくない。
    • 派手な演出もシリーズの特色ではあるが、これはやりすぎであろう。本作の感想、次作への希望などでこの点を真っ先に述べる人も多かった。
    • また、シリーズお馴染みの「待った!」「異議あり!」の演出だが、これも一部過剰に使用されている部分がある。特に最終話の前編~中編は「待った!」ラッシュであり、ことあるごとに叫ぶ御剣達にプレイヤーの方が「待った!」と叫びたくなるほど。
  • 『逆転裁判』からの続投キャラが目立ち過ぎていて、新キャラクターの印象が薄い。
    • これは『逆転裁判』シリーズのキャラクターの濃さ・個性がきちんと再現されているということでもある*4。しかし、その濃さが新キャラクターを食ってしまうことになった。
    • 印象の薄さは特にヒロイン・一条美雲に対して言われることが多い。
      • ゲーム中盤からと単純に登場がやや遅めで、糸鋸刑事や狩魔検事といったレギュラー陣が場を固めた後の登場となる*5。その後の出番や描写自体は特に少ない訳ではないものの、インパクトを残せずヒロインとして弱いという意見はよく見られた。
    • サブキャラクターも同様の難点を抱えており、各話単発登場でストーリー全体に関わらないキャラクターは犯人を含め全体的にパッとしない。
      • とにかく良い方向にも悪い方向にも印象に残りづらいキャラクターがシリーズ内で考えるとかなり多めで、キャラクター性を重視する逆転シリーズとしてはかなり痛い。
      • 犯人が地味なせいで、読後のストーリー全体の印象が希薄になってしまいがちなシナリオも複数ある。
      • 特に3章は、本シリーズの新キャラがまとめてこの章で出て来て、彼らの印象付けに時間が割かれている上、あるホラー演出にインパクトを持っていかれてしまっている。そのため単発キャラクターの印象が非常に薄く、本編を含めたシリーズ全体で見ても記憶に残りにくいキャラになってしまっている。
  • 長すぎるラスボス戦
    • とにかく往生際が悪く自身の立場を最大限に駆使して粘るためかなりの長期戦を強いられる。
    • ここだけ異様に長いため、当時から指摘が相次いだポイントである。

総評

アドベンチャーゲームとしては普通の出来で難易度もそれほど高くないが、旧作に登場した魅力的なキャラクターたちが活躍する様を、それまでとは違った視点から楽しめる外伝作品。
『逆転裁判』シリーズから強力なキャラクター性と会話戦をスムーズに引き継ぎ、シリーズファンから見ても違和感なく全体のシステムをまとめ上げた良作である。

もっとも、この時点での本作の評判は、「まだ本家には及ばないが、わりと頑張った」といったものが中心であった。
非常に評判の良い旧シリーズと大きく批判された『逆転裁判4』という、温度差の激しい比較対象を持つ複雑な境遇であるが故と言えるだろう。
そして次作『逆転検事2』では、ファンサービス的要素に押されてわりを食っていた感のある「検事」キャラクターたちにも大きくスポットが当たり、本家シリーズに肩を並べる高評価を得ることとなる。


余談

  • Eカプコン限定版やDSi同梱版が発売された。
  • 『逆転裁判』の後続作という形で漫画版が「月刊ヤングマガジン」で連載された。作画、原作も前作と同じ人物である。
    • 原作の要素を多く取り入れ、原作の延長として違和感なく作られていた前作に対し、漫画版『逆転検事』はストーリー・時系列などは完全オリジナルで、御剣と糸鋸が主役という以外の共通点はほぼ無い独立した作品となっている。
    • 原作キャラも基本、主役2人だけでヒロインの美雲すら登場せず、本作にも登場していた宝月茜が唯一ゲスト出演していた程度である。
    • なお、作画担当の前川かずお氏は茜がお気に入りキャラだと公言し、前作でも本編に出ない割に巻末おまけ漫画に度々登場していた。
+ タグ編集
  • タグ:
  • DS
  • 2009年
  • ADV
  • カプコン
  • 逆転裁判

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最終更新:2024年02月05日 20:32

*1 ちなみにこのぬすみちゃん、「ドロボーの秘密道具」としてコミカルに描かれている存在ではあるが、そこで用いられている技術水準が作中の時期的に見て飛びぬけているために、しばしば突っ込まれることがある。もっとも、不当な根拠をでっち上げているわけではないし、時としてオカルト要素すら受け入れられるシリーズの空気からすると、あまりマジメに考える点ではないだろう。

*2 特に全編通じて登場する「あの人」のインパクトが素晴らしい。

*3 『逆転裁判』シリーズは探偵パートは一人称視点、法廷パートは一部第三者視点。

*4 さらに言えば、今作の続投キャラクターは『裁判』の中でも特に濃い人たちだった。

*5 これ自身は他の新キャラにも言えることだが。