最果てのイマ

【さいはてのいま】

ジャンル ジュヴナイルADV


対応機種 Windows 98~XP
プレイステーション・ポータブル
発売・開発元【Win】 Xuse【純米】
発売元【PSP】 サイバーフロント
発売日 【Win】
 2005年8月12日(ボイスなし)
 2007年11月30日(フルボイス)
【PSP】
 2012年7月26日
定価 【Win】8,800円
レーティング アダルトゲーム
【PSP】CERO:D(17才以上対象)
配信 DMM:2015年10月2日/6,800円
判定 なし
ポイント 聖域の独特な雰囲気
時間軸が乱れるチャプター
緻密に描かれる人間関係とSF設定
描写不足に起因する難解さ
ザウス作品リンク


概要

シナリオゲーの名作『CROSS†CHANNEL』『神樹の館』で高評価を得た田中ロミオ氏がシナリオを手がけた作品。
2003年発売予定だったが、大幅な発売延期を重ねて発売された。
ジャンル名は「ジュヴナイルアドベンチャー」で、青春の穏やかな雰囲気を味わうことができる作品だと発売前は思われていた。
だが、いざ発売されてみると、その高度かつ難解な文章や複雑な設定に話題が集中したのだった。

フルボイス版は、主人公以外のボイスや、新規のお楽しみシーンを追加したもの。設定の根幹にかかわるようなシナリオの加筆はされていない。
PSP版はフルボイス版をもとに、お楽しみシーンを削除し*1、新規のシーンや追加CGを加えた作品。声優は全員フルボイス版から続投した。

さらに、2015年7月31日には、フルボイス版にPSP版での新規シーンを付け加えた完全版『最果てのイマ COMPLETE』が発売される。声優は全員続投。


あらすじ

―――彼らはいつも七人だった。

特殊能力を持つ少年「貴宮 忍」
彼には、幼いころから心を許している友人が6人いた。

放課後、町外れの廃工場が彼らのたまり場。
彼らにとってその場所は、誰にも邪魔されることのない空間。
家庭でも世間でもない安息の場所であり、
《聖域》だった。

人と人は傷つけ合う。どんなに親密でも衝突は避けられない。
しかし、たとえ接触が傷つけあいだとしても、
それは相手が実在することの証拠となる。
だからこそ生身の絆はかけがえのないものとなるのだということを…

	

7人の間で繰り広げられる、理解と共感、反発と衝突。
そして思春期の淡い恋愛感情。
永遠に続く友情。

そんなまどろみのような幸せの中に、ずっといられる―――はずだった。

PSP版公式サイトより抜粋。


登場キャラクター

+ 若干のネタバレ含む。クリックで開閉
  • 貴宮 忍(あてみや しのぶ) 声:なし
    • 主人公。7人を廃工場に集めた張本人であり、まとめ役。
    • 一生7人が友達のままでいることを望み、彼らの絆を壊そうと現れる敵の前に、重大な決断を下すことになる。

以下、紅緒あずさ・本堂沙也加・塚本葉子・伊月笛子4名は形式上の攻略ヒロイン。

  • 紅緒 あずさ(べにお ~) 声:みる
    • 小動物的な女の子。忍に好感を抱く一方で、章二とよく喧嘩する。
    • 幼年時にいじめの標的にされ、他人に辛辣な態度で向かうが、怪我をして忍に助けられてからは次第に心を開くようになっていく。
  • 本堂 沙也加(ほんどう さやか) 声:風音
    • 旧家のお嬢様。態度に棘がなく、誰とも優しく接する、頼れるお姉さま。時々邪魔と感じるほど家族には愛されている模様。
    • 幼少時は、他人との接触を避け、ただ一人静かに過ごせようとしていた。持ち前の特殊能力で歯向かうことで魔女だと恐れられてきた。
    • 主人公は彼女と幼少時から肉体関係を抱いてきた。「夢-1」のシーンと相まって、シナリオライターのロミオ氏がロリコンと呼ばれる所以である。
  • 塚本 葉子(つかもと ようこ) 声:夏野向日葵
    • おっとりとした不思議な少女。
    • スイッチが入ると下ネタを垂れ流し、周りに変な気持ちをさせる。
    • 幼年時は門倉家の養女として、心を白紙にして他人を読心する能力を利用されてきた。門倉家崩壊後、忍に誘われ聖域に入った。今の性格は聖域メンバーとの交流によって形作られたもの。
  • 伊月 笛子(いづき ふえこ) 声:大花 どん
    • 緑髪の眼鏡巨乳。
    • 規則に厳しく、ふざけるものには説教したがる、『CROSS†CHANNEL』の宮澄見里を彷彿させるキャラ。
    • 「めがねのことなんてどうでもいいわ、バカにされることには慣れているもの。 みんなめがね嫌いだもの。」
  • 樋口 章二(ひぐち しょうじ) 声:柏木誉
    • 主人公の悪友。
    • 学校を通いながら探偵社にバイトし、街の不良を統合するアウトローのカリスマ。
    • そんな彼が、いつもあずさと痴話喧嘩し、忍を土下座させる夢を見ている。
    • 7人の空間を聖域と名づけるのは彼で、大切にして守る想いが忍のそれにも負けない。掻き乱す者が跋扈している以上、男は常に臨戦体勢なのだ。
  • 塚本 斎(つかもと いつき) 声:薔薇珈琲
    • 葉子の兄で、寡黙な漢。
    • 喋らなくてもいいと忍から気を遣われた結果、常に無口でいる。
    • 妹とともに門倉家の門下にいた。自分を「犬」と自嘲していたが、「忠犬」という誇るべき生き様を彼はして見せたと言えよう。

以上の7人が、聖域メンバー。

  • 貴宮 千鳥(あてみや ちとり) 声:松永雪希
    • 忍の義姉。とある理由により、忍には淡白に接する。
  • 伊勢崎 宗多(いせざき そうた) 声:天草シロ
    • 忍を付き狙う不良の少年。小悪党的な悪劣さが目に付きやすいキャラ。
    • 執拗に忍のもとへと近づいていく彼の行動は、一見不可解であるが、設定的には理にかなった行動である。
  • 南 レイ(みなみ ~) 声:仲達
    • かつて忍がいた「施設」(群像委員会という組織が運営する武装科学研究施設)の一員である少年。
    • 軍人のような精悍さを放ち、見るものを戦慄させる。忍の帰還を脅迫気味で呼びかける。
  • ジーン・ブランシェット 声:山田奈穂
    • わがままでアグレッシブな金髪少女。
    • れっきとしたアメリカ人だが、自称日本人。
  • 門倉正道(かどくら せいどう) 声:光田まさよし
    • 名門・門倉家の御曹司。剣道に長ける。
    • 以前、家から追放され、一門は没落の道に辿ったが、本編の時点で帰還し、塚本兄妹を再び掌中に収まることで家門再興せんとする。
  • 灰野耕一郎(はいの こういちろう) 声:安芸怜須ケン
    • 戦争編で登場する壮年の男。「施設」の最初期メンバー。
    • 人類を統領する地位を狙う彼は冷徹で無機質。
  • シャーリー・磯下(~・いそした) 声:黒崎猫
    • ワンピース姿の少女。
    • 挙動が幼児そのものだが、重度のゲーマーであり、よく「エロゲ」「洋ゲー」のことを口にする。
  • フランシスθ(~・シータ) 声:佐本二厘
    • 人語を話せるイルカ。種族の特性として、踊るように泳ぐことで感情を示す癖がある。
  • イマ 声:松田理沙
    • 「お茶会」の場で忍が見た少女。本作の鍵となるキャラクター。
    • であるが、出番自体は少ない。
    • のち、主人公から新たな名前を受け取るが、語感はともかく、その際呆れたともとれる反応を示したほか、名称欄が「イマ」のままであること、さらにフルボイス版のCG閲覧でも一言で自虐したことから、なんともネタにされやすい。
  • 邑西(ゆうざい) 声:花代銀蔵
    • 脳科学を専攻する男性科学者。老いているように見えるが、まだ30代。
    • クオリアの秘密を解明する至ったが、その直後「敵」によってその記憶を奪い取られてしまう。
    • 自分が「敵」を招いてしまったのではないかという罪悪感を抱えている。
  • 相田 幽(あいだ ゆう)声:NUCA
    • 戦争編で登場する。南レイの配下の少年の一人で、忍に敵愾心を燃やしている。
    • 立ち絵のあるキャラクターで、本調子ではない主人公と対決して引き分けに持ち込む実力を持っているが、戦争の意味を忍に問い詰められて言葉を無くし、結局忍と敵対の立場を選んでおいて南に重傷を負わされそのまま退場。
    • その後一切出番がないということもあって、プレイヤーにとっては噛ませ犬的な印象が強くなり、相田(笑)と呼ばれることが多い。

ゲームシステム

  • 本作に選択肢はなく、チャプターで区切られた文章を順番に読んでいくだけのゲームなので、実質デジタルノベルに近い。
  • 従来のADVの選択肢に代わるものとして、「Blog」と呼ばれるシステムを採用している。
    • 時折本文テキストのなかに、下線の引かれた色の違う単語が現れる。そのテキストはハイパーリンクとなっており、クリックすると別の場面へと移る仕組み。『』で搭載されたような、いわゆる「TIP」にあたるものである。
      • リンクの先には用語説明のみならず、いわゆる「サイドストーリー」や回想、一瞬の演出などが織り交ぜられている。Blog内の文章から別のBlogへと飛ぶリンクも用意されており、従来のTipsの枠組みを逸脱したボリュームがある。
      • 一つのBlogを読み終えると、自動でリンククリック前の場所に戻ってくる。
      • チャプターは巻き戻せるので、リンクを見逃してもすぐに拾い直せる。
    • 本編で読んだBlogはおまけモードですべて読み直すことができる。通常のアダルトゲームでのシーン鑑賞が基本的にお楽しみシーンだけであるのに対して、この作品では本編も含めてすべて鑑賞できる。
      • セーブデータの最大数が50個だけなので、この機能がないと好きなシーンを呼び出すのに骨が折るだろう。
      • ただし、シーン鑑賞でリンクを辿ることはできないので注意。
      • バックログからはリンクを選択できないので、シーン回収や内容理解のためにも、結局はすべて読むことが推奨される。
      • 章の最後ごとにセーブデータを取っていれば、いつでもリンクを踏めるようにシーン閲覧が出来る。
  • ADV的な選択の要素は最序盤のチャプターである「最初の日」以外には存在しない、それ以外はあくまでもキーワードの解説のようなもので、必ず読まなければならないということはない。リンクをクリックしなかったらゲームオーバー、なんてこともない。*2
  • 各ヒロインのシナリオを読み終えると、そのまま「戦争編」と呼ばれるシナリオに移行する。途中でのシナリオ分岐などはなく、読み終えればエンディングとなる。
    • このことから、戦争編に対してそれまでのストーリーは「聖域編」と呼ばれることが多い。本記事でもそれに従う。

評価点

  • 重厚な世界観
    • プレイする楽しみを損ねるネタバレなので詳細は避けるが、本作はSF的な世界設定にもとづいた物語である。そしてその設定が、いわゆる「青春もの」としては異例なほどの密度で作りこまれており、設定の破綻もない。
      • 脳科学や心理学、ミームなど、現実の学問領域として存在する知見を物語のなかに上手く折衷し、現実には存在しないさまざまな要素をリアリティたっぷりに描写できている。
        + どんなSFなのか
      • serial experiments lain』『攻殻機動隊』などで見られた、人の脳を端末と見立てて、インターネットワークを形成するもの。
        • 「投射」と呼ばれる技術で念動力や現象を発現していくという、超能力的な要素も描かれる。
        • どちらの技術も「ミーム」と呼ばれるナノマシンの発明によって実現できたとの設定。
      • この世界設定は、物語の根幹のテーマともかかわっている。
    • ヒロインルートの序盤は穏やかな雰囲気でストーリーが進むものの、人口や食糧事情、情報手段など、すこし引っ掛かりを感じる程度にその世界観を描写し、戦争編が近づくにつれてそれらの描写を強めていく。そのうえで戦争編が始まり、主人公自身や世界そのものなど、より根深い問題について解決していく。
      • 賛否両論点の項目でも記述する通り、この作品は前後のチャプターの時系列が不整合である箇所も多いのだが、順番に提示されていくストーリーは以上のようにまとめられる。
  • 質の高いOPムービー
    • 霜月はるか氏が歌う『a far song~カナタノウタ~』の壮大な曲調で評価が高い。また、それに応えて変化するグラフィック、哀愁のあるテロップ、それらが混ざり合うハイクオリティなムービーも人気がある。
    • ある程度までゲームが進行すると、異なるテロップと演出のOPムービーが流れる。
    • 物語の進行するなかで突如登場するOPのテロップにハッとさせられたプレイヤーは多いだろう。最終的に合計3種類流れるOPムービーは、物語への没入を促すことに一役買っている。
  • 会話のセンスが感じられる日常シーン
    • キャラクター同士のコミュニケーションによって、キャラクターの特徴を十二分につかむことができる。
    • くだけた言葉遣いや仲間うちでの造語など、ユーモアのあるテキストは、ときには萌えを、ときには腹筋崩壊のギャグを提供してくれる。
      • 下ネタがやや多めで、しばしば生理ネタも挿入される(PSP版でも修正されていない)ので、苦手な人にはきついかもしれないが。
    • チャプター「夢-1」「沙也加の粗茶」「勉強の約束」や、Blog「不携帯」「眼鏡」などは、ロミオ氏のギャグセンスがいかんなく発揮されている。
    • 戦争編になるとギャグシーン自体は少なくなるが、新たなサブキャラクターとの日常会話のシーンは用意されており、ここからも噴飯もののサイドストーリーがある。
  • ボリュームがあり、描写も濃いテキスト
    • 本作の平均プレイ時間は、Blog含め一周する場合、ボイスなしの無印版の時点で40時間前後にもおよぶ。フルボイス版以降だともっと長くなるだろう。
    • 地の文が硬く、主人公も含めて3人称で書かれている。キャラクターの性格の表裏を客観的に評価する文章や、ギャグシーンを盛り上げるための詼諧な描写、哲学的思索などの知的好奇心をそそる描写もあり、プレイヤーを飽きさせない文章上の工夫がなされている。
      • しかし、硬い文章はそのまま問題点にもなっている。少なくとも軽く読み飛ばせるような文章ではないので、合わない人はゲーム開始数分で脱落することとなる。
    • この作品では、各ヒロインのルートを最低2周はすることになるほか、全クリしてからもう一度テキストを読み直す必要に迫られるなど、周回プレイを前提とした構成がなされている。それゆえ、ADVでありながらテキストを再読するたびに、以前は気にならなかった点に気がつき、感動するということが多い。
  • 心に染み渡るテーマ
    • SF的な世界観をもちながらも、そこで語られるテーマは「心の聖域」「他者の必要性」「社会における立ち位置」など、多くの人が一度は考えたことのあるものである。『CROSS†CHANNEL』から初めのロミオ氏担当作品とはテーマが似通っている。
    • 序盤から日常シーンの合間にちょくちょくこれらテーマについての考察がなされる。心の琴線に触れるものがあれば、そこから一気に引き込まれていくだろう。
  • Blogシステムによる独特なプレイ感覚
    • 本作では全バージョン共通で、ゲームを開始すると昔ながらのホームページの入り口のような画面が現れるようになっている。画面内の「Enter」ボタンを押して先へ進むと、OPムービーが流れてタイトル画面へと至る。これを毎プレイ繰り返すことになるのだ。
    • これは先述の「Blog」システムとの相性やストーリーの展開と相まって、ゲームのテキストを読むことそのものが、インターネットでビジュアルつきのブログを読んでいるのと似たような感覚になる。
      • 詳細に触れるのはネタバレになるが、もちろんこのようなシステムにも重厚な世界観設定による裏付けがあり、説得力がある。

賛否両論点

  • Blogと本筋の間のテンポ
    • 一部のBlogは、たとえ本編を熟読していたとしても本筋の内容を忘れてしまうほどのボリュームで、結果的に作品全体の流れの把握を阻害している。
  • 聖域編と戦争編のギャップ
    • 聖域編では、あくまでも聖域や忍達が住む町に起こる事件に焦点が当てられていた。にもかかわらず、戦争編ではいきなり「施設」と呼ばれる場所での内部紛争と戦争に焦点が当てられ、聖域の仲間がいない状態で主人公が闘争に身と投じるという展開になる。
      • そもそも、公式ページやパッケージ裏の文章だけでこのような展開を予測することは難しい。ジャンル名から想像できる「ジュヴナイル」な「青春もの」を期待していたプレイヤーは戸惑いを隠せなかった。
      • ただし、聖域編にも少なからず伏線は張られているので、いわゆる「超展開」ではない。
      • 戦争編のなかで触れられる設定は裏設定となる予定だった。しかし戦争編では、主人公の来由など、核心的な真実が明かされるため、戦争編自体を不必要だとする声は少ない。
  • バラバラな時系列で見せるストーリー
    • 前後のチャプターで、一見連続した出来事のようで、実は違う時系列の描写であるということがしばしばあり、起承転結をつかみにくい*3
    • もちろん理由づけがあってのものだが、それが明かされるのはエピローグも間近になってからである。そこにいたるまでは、「テキストは面白いけれど、いまひとつ話に没入しきれない」という状態でプレイしていかなければならない。
      • また、チャプター同士をどのように繋げれば正しい時系列になるのかは、全シーン通過しても明らかにはならない。
    • しかも、一部シナリオではそれを用いた叙述トリックまである。そのほか、描写不足になっているシナリオなどもあり、ストーリーの細部を理解するためにはプレイヤーの立ち入った努力が要求される*4
      • なかには、テキストを読んでいた時間よりもチャプター同士の時系列をどう配置させるのかを考察する時間のほうが長くかかったというプレイヤーもいる。繰り返すが、この作品の平均プレイ時間は40時間前後である。
    • 制作初期段階でのBlogは、製品版よりさらに複雑なものだったことがわかっている。しかし、開発期間が長引いたためか、内容とともにシステムも簡略化され、複雑ながらも整然とつながるはずだったBLOG同士が入り乱れになってしまい、かえって分かりにくくなっている。
    • ただし、公式ホームページやOPムービー内でも表示されている「千々に撒かれたパズルのピース。どうか、優しく配列されますように」という表現の通り、一見散乱しているBlogにも意図が込められており、その難解さが批判されることはあっても、「バラバラであること」自体は許容される。
    • 戦争編では、時系列の乱れは見られない。
      + 大まかな流れ。ネタバレ注意
    • 作中の時期は「幼年期」「戦前」「戦中」「戦後」の4つに分かることができ、大まかな流れは以下通り。
      • 幼年期
        • 科学組織「群像委員会」が運営する研究施設の秘密兵器として育てられた貴宮忍は、「敵」の侵略を予測してしまう。
        • 施設の承認で超能力者の調査との名目のもと、千鳥とともに施設を出る。「敵」に立ち向かうために必要な感情を、得るために人々と接触し、6人の少年少女と知り合う。決まった時間に工場に集まるよう義務化させ、いつしか互いに慣れ親しむようになった。
      • 戦前
        • 絆を深まる7人だが、忍は仲間を手放せなくなってしまい、施設のことは二の次になる。だがさまざまの脅威に聖域の安穏を乱され、施設からは帰還命令がくだり、その渦中で親友・樋口章二は死亡してしまう。
        • もはや責務から逃げられないと悟り、忍は施設へ帰還した。
      • 戦中
        • 人々を心無き生きる屍にする「敵」を迎え撃つため、忍は来たるべき戦争に備える。
        • 「敵」とは、人類の意識がネットにより繫ぐことでに生まれる意識体で、その撃滅は人類の衰退を招くことになる。
        • 仲間を守ると誓った忍は、人々を消耗品のごとく扱えることを罪悪感を抱きながら敢行し、「敵」を消滅させる。かくして人類は僅かながらも生き延びた。
      • 戦後
        • 戦争での消耗で、忍は廃人のようになり、上記の4つの時系列を正しく把握できなくなってしまう。毎日のように誰もいない学校に通い、章二が生きているように錯覚して街中を彷徨う。残りの仲間は忍が混乱しないように、あたかも章二が生きているかのように演じて、見守っていく。
        • 戦後1年が経過した日の「お茶会」の最中、ようやく忍の認知は正常に戻った。
      • 各ルートのいずれのシーンも「実際に起こったこと」なので、ごく一部を除き、「幻」「なかったこと」と分けて考える必要はない。
        • また、これらの時系列は、意図的に配列されたものである。作中のキャラクターがそれを強調していることもあり、時系列の乱れは本作のアイデンティティといってもいい。
        • ループやパラレルだと誤認させてくる仕組みであり、「配列」をしたキャラクターには悪意もあったため、意図的に改竄されたような、作劇上禁じ手に近い悪質なミスリードを誘う文章もある。笛子のシナリオでそれは顕著。
  • キャラクターの生死
    • 3名の重要キャラクターが、劇中での死亡は明言されたものの、それぞれの死に際の描写もなければ、死因も分からずじまいである。
      + その三名
    • 樋口章二
      • ある殺人事件の調査に向かい、あずさの中学で命を落とす。「暴走した笛子の手にかかった」「門倉に斬殺された」「伊勢崎一派の報復」「王・貴宮忍を惑わすものとして南か千鳥により抹殺」「灰野の刺客」など、犯人について諸説あり。
      • 紅緒あずさの母親
        • ある場面であずさが「今年は母の一周忌だよ」と言及しただけ。
      • 灰野耕一郎
        • 施設へのクーデターの最中で死亡。「作用値750以上の投射攻撃を受けた」と記載があったレポートから、主人公以外の誰にもできないという意見でほぼ一致しているので、上記の二人よりは疑問点が少ない。
  • 複雑な設定と難解な用語
    • 評価点の項にも記述したが、本作の文章は従来のADVと比べてかなり硬い。また、純文学でも滅多に使われないような表現や熟語が頻出する。戦争編が近づくと、心理学・脳科学・情報科学などの分野からの専門用語がしばしば登場し、戦争編にいたってはさも当たり前であるかのように使われる。人によっては辞書を片手にゲームをプレイするというシュールな状況になりうる。
    • 本作が膨大なSF設定に支えられていることが発売前には徹底的に伏せられていたため、ジャンル「ジュヴナイルADV」から緩やかな物語を予想するプレイヤーの多くを難解描写と専門用語の泥沼に沈めてきた。
    • それも『CROSS†CHANNEL』からの傾向で、あちらではSF要素があくまでスパイスだったが、本作では世界観および作品の思想に密着させた堅実ぶりである。この方向性も後年の『Rewrite』に受け継がれた。
    • 評価点でも記した通り、設定自体の評価は高い。

問題点

  • 削られたチャプターの行方
    • 本作では、本来描かれるはずだったシナリオが納期の都合で大幅に削られてしまったということが明らかになっている。実際、説明不足となっている描写が多く、エンディングを迎えても解決されないものもある。そもそもの文章表現が独特なこともあり、「未完成品」「ライターの自己満足」という批判も一部では挙がっている。
      • 評価点通り3種類のOPそれぞれにはチャプター群の区分となる題名がつけられているのだが、その題名は「IMA:category1」「IMA:category2」「IMA:category5」となっている。5は元々制作予定がなく、3と4が没になったことによる代替のものとしてつくられた。
      • 実際エピローグにあたるチャプターでは、感動的なシーンに前後して、本編内で殺されたはずのサブキャラクターまでもが唐突に登場し、座談会のような形でさまざまな設定のネタばらしがされるので、とってつけた感が漂う。シナリオを削ったしわ寄せを食う形となった。
      • このようなネタばらしチャプターを用意してなお、説明されていない要素が多く残る。世界観や作中の状況から推測できる要素もあるが、そうでない場面も数多くみられる。設定の破綻はないが、説明が不足しているというもったいない状態である。
      • この作品のファンのなかでも、3,4から始まるチャプターのシナリオが完成していたならば、作中の多くの謎は解明できたかもしれないと残念がる意見が多い。
    • 後にフルボイス版、PSP移植版、COMPLETE版が発売されているが、3や4にあたるシナリオは一切追加されていない。
  • 一部キャラの掘り下げ不足
    • チャプターが大幅に削られたために、特にキャラクターの設定にかんする描写が不足しており、推測に推測を重ねるしかなく、確実といえる答えが存在しないものもある。
    • 特に、ヒロインの一人である伊月笛子のシナリオは、一部設定が解読不可能なほどの難解さとなっている。
      + ネタバレ
    • 特に議論されるのは、「『笛子』が姉なのか妹なのか」という点である。ゲームプレイ中に現れる「笛子」は、姉がいるとも妹がいるとも取れる発言をし、さらには主人公も聖域で「笛子」の妹を見ている。
    • しかし実際には、立ち絵の違いから、プレイヤーは聖域で仲良くしている「笛子」は妹だとわかるし、エピローグにあたるチャプターで、彼女には姉がいるということもわかる。
    • ところが問題は、地の文では姉も妹も両方「笛子」と呼ばれている点である。主人公の記憶が混乱していることと、地の文の記録者の悪意による改竄が原因だが、そのことが笛子ルートのチャプターで起こるさまざまな事件と「笛子」との因果関係をとてもややこしいものにしているうえ、その説明も十分ではない*5
    • 本作最難関のトリックで、匿名掲示板などでの議論も盛んである。
    • あずさシナリオも、問題の核になると思われた母親との軋轢がいつの間にか解決されてしまい、呆気にとられたプレイヤーも多いだろう。

PSP版の問題点

  • 葉子ルートでの新規シーンは、担当声優の演技がほかのシーンとの乖離が顕著。
  • CG切り替え時、Win版になかった遅延が発生、さらにBGMが途切れて最初に戻ってしまう。メディアインストールでも緩和されない。

総評

重厚な世界観と舞台設定にもとづいた緻密なシナリオと、細部に残された謎とが並行して存在する一長一短の作品である。
壮大なシナリオを設定破綻を起こさずにしっかりとまとめあげ、多少強引ではあるが伏線回収もしたことは高く評価されており、「シナリオゲー」としてしばしば名の挙がる有名な作品となった。
しかし、細部で説明不足な点が目立つこと、未完成チャプターがあることなどのマイナス点や、極端に難解な描写など、人を選ぶ側面も強く、万人に勧めることができないのは事実。
ただし、合う人にはこれ以上ないほどの名作となりうるのは間違いなく、このゲームのためにほかのゲームをプレイできなくなった者もいる。
少なくともロミオファンに加えて、日常のやり取りやSFにこだわる人で、多少硬い文章でも読み進めることができるのならば、熟読した分相応の手ごたえを得られるだろう。

現在は完全版の『最果てのイマ COMPLETE』がダウンロード販売されているため、これからの購入はこのバージョンを推奨する。


余談

  • エピローグのメッセージ「人類は衰退した」と、作中実際で起こった事件から、一時期本作が田中ロミオ著ライトノベル《人類は衰退しました》と関連性をつけられていた。
    • その最終巻たる9巻では、それぞれの世界の成り立ちが違うのが明らかになった。

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最終更新:2021年12月14日 15:01

*1 だが、ディープキスと、あの「レズセックスのようなシーン」は修正なし。

*2 リンクを「クリックしない」ことで到達するチャプターはいくつあるが

*3 最初に発売されたバージョンがボイスなしとなっているのは、この設定のためではないかといわれていた。結局はフルボイス版が発売されたが。

*4 本筋の大まかなテーマについてならば、あまり難しくはない。

*5 そもそも、主人公自身も混乱しているのでどうしようもないのだが、物語の核とは異なる部分でここまで難解な描写をしておきながら、その答えがわかりやすく用意されないというのはまずいだろう。