アーマード・コア フォーミュラフロント
【あーまーどこあ ふぉーみゅらふろんと】
ジャンル
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メカカスタマイズシミュレーション
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対応機種
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プレイステーション・ポータブル プレイステーション2
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発売・開発元
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フロム・ソフトウェア
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発売日
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【PSP】2004年12月12日 【PS2】2005年3月3日 【PSP INT】2005年11月17日
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定価
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【PSP】5,040円 【PS2】6,090円 【PSP INT】2,800円(全て税込)
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判定
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良作
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ポイント
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AI操作のACを「見守る」異色作 「3すくみ」を形成する良好な対戦バランス AI周りの仕様の難解さ
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アーマード・コアシリーズ
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概要
PSP登場初期に発売された、携帯機初の『アーマード・コア』シリーズ作品。
ACシリーズと言えば「機動兵器ACを駆る傭兵が、企業などの依頼を受け任務を遂行していく」というスタイルのアクションゲームだが、今作ではそれらの設定を廃し、「平和な世界で、ACは娯楽の対象」「ACはAIで動かし、プレイヤーは機体のカスタムとAIのカスタムを行う」シミュレーションとなっている。
明るく、スポーティで爽やかな設定で、アニメ『IGPX』などが近いかも知れない。
これらのことからファン・公式共にシリーズ内でも異色の作品として認知されており、この後に出た「アーマード・コア10作品記念作品」である『ラストレイヴン』では、この作品のことはカウントされていない。
ちなみにフロム・ソフトウェアも誤購入を警戒したのか、パッケージに「本作はACを操作するゲームではありません」という旨の注意書きを行っている。
PSP版とPS2版が存在し、基本のシステムこそ同じだが、ゲーム内容は少々違うものになっている。
後にPSP版のBEST版として、手動操作モードを追加し、若干の修正を行った『インターナショナル(以下int)』が発売されている。
特徴
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プレイヤーはチームの監督に当たる「アーキテクト」と呼ばれる立場の人間になり、アセンブルしたACと、頭脳に相当するAIを組み合わせた「u-AC」を構築、対戦チームのu-ACと戦わせ、ランキングのトップを目指す。PSP版とPS2版では仕様が大きく異なり、戦略性や機体構築の考え方も変わってくる。
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PSP版では1vs1の「レギュラーリーグ」で、ランキングの1位を目指す。プレイヤーは所有する5機のACを試合ごとに1機選択して出場させる。
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『int』では自分で機体を操作できるマニュアルモードも追加。ボタンが足りないので視点の上下移動は自動で行われる。
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PS2版は5vs5の勝ち抜き団体戦である「エキスパートリーグ」が舞台となる。5つのグランプリに分けられたシーズン内で総当たりのリーグ戦が行われ、その総合成績でランクが変動する。
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事前に設定した出場順に従って1vs1を繰り返し、先に相手の5機を全滅させたチームが勝利となる。各戦闘後は消費した弾薬や失われたAPは完全には回復しないので、防御力や装弾数にも気を配る必要がある。
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AIは人間のように臨機応変なことが出来ない。そのためプレイヤーはAI構成に主に頭を悩ませることになる。
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AIは基礎的な性格を設定する「BASE CHARACTER」とさらに詳細な癖を設定する「AI PERFORMANCE」を設定でき、さらに「オペレーションチップ」と呼ばれるAIに特定の行動を取らせるコマンドをセット出来る。
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パーツは『ナインブレイカー』(NB)の物を使用(パラメータもそのまま)。ゲーム開始時から全てのパーツが用意されている。
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“チーム内でオプションパーツ以外のパーツを共有できない”制限が存在するため、既存パーツを元に設定された水増しパーツが追加されている。
評価点
良好なゲームバランス
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後述するが、AIはプレイヤー操作のように複雑な行動を行えないので、高機動機を組んでもそれを生かすことは難しい。このため、基本的に本作では「重装甲+高火力で『やられるまえにやる』」重量2脚やタンク脚部をベースにした重装型が強い。
しかし決して「重装型が最強」というわけではない。ユーザー間での研究が進むにつれ、アセンブルとAIの構築をおおまかに3つのカテゴリーに分けた「3すくみ」が成立することが判明したためだ。
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重装甲・重火器で固めた「重装型」は安定して戦えるものの、後ろに回り込もうとする「回り込み型」を捕捉することが難しく、一方的に撃破されることも多い。
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機動力を重視した「回り込み型」は至近距離での旋回戦では無類の強さを誇るものの、距離をとりつつ攻撃する「引き撃ち型」にはなかなか追いつけず、ジリ貧になる。
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距離をとりつつ相手に攻撃を打ち込む「引き撃ち型」は「回り込み型」に対しては強いが、「重装型」との撃ち合いでは火力負けする。
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……と、このような絶妙なバランスが生み出されている。さらに同じカテゴリーでもアセンブルによるバリエーションがあり、ステージのランダム性も加わって、3すくみをある程度無視したり覆すことも出来る。
するめじみたu-AC構築の楽しさ
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問題点の項で解説するように、はっきり言って本作のAI構築は難しい。だが、AIの癖や仕様を理解していくと共に面白さが見えてくる。…はて、どこかで似たような作品があったような…?
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如何に機体に思い通りの戦術(に近い戦術)を取らせるか、それを試行錯誤していくシミュレーション要素が強い。
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PS2版ではチーム内のパーツ重複禁止という制限がもろに響く。強パーツをてんこ盛りした先発機で勝ち抜くか、バランス型のチームを組むかといった選択を強いられる。
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自分で組んだ機体が戦術通りの動きをしてくれた時の喜びはかなりのものである。ブレードを連続でヒットさせたり、相手に捕捉されないまま勝利したりと思いもよらない戦果を上げることも。
スポーツアニメ風の雰囲気
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薄汚れて殺伐としたレイヴンはどこにもいない。存在するのは世界最大の娯楽である「フォーミュラ・フロント」に熱狂するファン・評論家、そして生き残りにしのぎを削るチーム経営者とアーキテクトである。
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プレイヤーの勝ち抜きに応じてストーリーが進行し、様々な人間の悲喜こもごもが見えてくる。シリーズの例に漏れずキャラ絵は無し、今作ではボイスも無し、完全にテキストのみの形式だが、それでもキャラクターに愛着を感じるような雰囲気付けは流石フロム、といったところか。
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PSP版は少々淡泊だが、PS2版では他のシリーズ作品を上回る量のストーリー要素が用意されている。ニュース更新やメールによって織りなされるデータを集めていくのもまた一興。
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良好な戦績を残せばプレイヤーチームがニュースで大々的に取り上げられたりもする。シーズン優勝は果たせなくとも、期待の新チームとして名が挙がったりするなどの細かい描写も見られる。
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グラフィックデザインもさわやかで、モータースポーツのような面白さを味わえる。
その他
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フロムお家芸のオープニングは、随所に過去の3DCGや実際のプレイ画面を流用・使用した、いわば「公式MAD」とでも言うべきもの。だがその出来は素晴らしい。
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『int』では構成とBGMが見直され、更にスタイリッシュに。『歴代最高』と評するレイヴン・アーキテクトも多い。
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試合中のカメラ切り替え・画面表示切替が非常に充実している。
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シリーズではおなじみであり、N系ではCPUのみ有効だった公式チート「強化人間」は今作では存在しない。そのため、全てのチームと公平に競い合うことのできる数少ない作品である。
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シリーズ初の要素として、自チームのプロフィールを作成できる。チーム構成を真面目に書くのも、思い切ってネタに走るのもプレイヤー次第である。
問題点
両ハード共通
史上最も素人にやさしくないAC
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ACシリーズ全体に共通することだが、機体構築は難しい。さらに今作ではAI特有の癖があるため、それに対応した機体を組まねばならず、シリーズ経験者であっても慣れないと簡単にはいかない。本作を初ACに選ぶことはお勧めできない。
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PS2版ではグランプリごとにリーグ割りが変化するが、場合によっては上位チームと序盤から対戦することもある。タンク型脚部に重装備を満載したいわゆる「ガチタン」でのゴリ押しや熱・ECMを用いてのハメ殺しなどシステムを活かした戦術を取ってくる上位チームも多く、AI設定に四苦八苦する初心者レベルではどうしようもない相手も多い。
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一応エキスパートリーグ突入前にはチュートリアルを兼ねた下位リーグ「ボトムリーグ」での戦いがあるものの、ボトムリーグの所属チームは揃いも揃って弱く、適当なチームでも勝ててしまう。そのため、エキスパートリーグを勝ち抜くためには自分でセオリーを見つけ出していかなければならない。
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ゲームバランスは『NB』からの仕様を受け継いでいるため、熱ハメや超火力などが猛威を振るうのは相変わらず。使いにくい・使いものにならない「産廃パーツ」の存在も変わりない。
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ただし“AI操作だからこそ生きるパーツ”も少なくはなく、他のシリーズと比べても“産廃”と呼べるパーツは遥かに少ない。
難解なAI設定
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AIの各チューニング項目が実際にどのような効果があるのか、どう設定すればどう動きに変化が表れるか、という部分は、ゲーム画面や説明書の文言とはいささか喰い違いがある。u-ACに思った通りの動きをさせたければトライ&エラーを繰り返すしかない。
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例えば「熱量管理を重視」すると、被弾を恐れて行動パターンが臆病になる。このように、ひとつの項目は項目に書かれた内容だけでなく、複数の変化をもたらす場合が多々ある。
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AIの思考パターンは単純で、「複数の武器を使い分ける」「試合時間の経過で戦術を変える」などの複雑な戦術をとらせようとすると確実に粗が出る。そのためある程度セオリーを理解してしまうと、最適なアセンブルとAI調整は「各3すくみの役割に特化したシンプルなアセンブルとそれを生かすAI」に行き着いてしまう。
特に「回り込み型」は、最終的には「反動に強く旋回性能の高い軽量~中量四脚にありったけの火力と冷却性能を持たせ、被弾はある程度度外視して相手に接近することだけを考えたAIと組み合わせる」というアセンブルの安定性が高く、このパターンの構築に落ち着いてしまう。
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一応オペレーションチップに「背中武器をパージする(バックウェポンオフ)」「左右の腕武器をパージし、格納武器があればそれに持ち替える(レフト/ライトハンガーシフト)」というものがあるため、人操作のような「弾数の少ない武器を開幕で使い捨て、弾が切れたらパージ」くらいの戦術は取れる。
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AIは敵の攻撃を受けると怯んで防御寄りの行動を取り、戦術のペースを自ら崩してしまう。回り込み機にとってこの「ビビり」は致命的である。
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ビビりを無くすにはオペレーションチップでの補正が必要だが、そもそもこの仕様は全く解説されていないため、対策しようにもなかなか気づくことができない。
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一応チュートリアルは存在するのだが、あくまで解説してくれるのは触りの部分だけで、ビビリの存在や各チューニングがもたらす詳細な効果については解説してくれない。
オペレーションチップの仕様
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チップは「30秒毎に一枚」しか設定できない。平均して1分前後で決着がつくことが多い本作のスピーディーさとは完全にかみ合っていない。
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また「自機の耐久力が半分を切ったら発動」「機体の熱が溜まったら発動」といった細かい条件も設定できないため、AIの単純さに拍車をかけてしまっている。
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オペレーションチップの種類は多いが、「用途が思いつかないチップ」「説明文と異なる挙動を示すチップ」などが多く、ここでも初心者を振り回す。
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前者は「武器を使用しない(デッドアームズ)」「一切の武装をパージする(オールオフ)」「ビビりを無視するがインサイド以外の武器を使わなくなる(ボムシャワー)」などが筆頭。どう考えても戦術に組み込むことが不可能なチップも多い。
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後者のチップも多く、戦術に組み込みにくい。以下はその典型例。
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「フルバック」をはじめとする「バック(後退)系」チップ。ステージの広さ次第では「これ以上後退できないと判断して、相手とすれ違って距離を離そうとする」ため逆に相手に接近してしまう。
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「ワイルドショット(一斉攻撃)」は、すべての武器で相手を捕捉しないと攻撃を開始しないため、結果的に攻撃頻度が落ちてしまう。
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「スリップミサイル」は、「ミサイル攻撃の回避を最優先に行動する」と解説されているが目に見えるほどの効果を示さない。
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「ACシリーズの伝統」といえばそれまでだが、ハッキリ言えば全チップ中、対戦で使えるようなチップは半分もない。
その他
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そこまで気になるほどではないが、試合開始前のロードが長め。
PSP版
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PSP初期のゲームであることもあってか、全体的に挙動が重い。再現性は低いが、アセンブル画面でフリーズする危険性もある。
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一部の問題点は『int』で解消されている。
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画面切り替えの際の読み込みが遅い ⇒『int』ではかなりスムーズに
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クリア後には3人の追加キャラが出るだけで、やりこみ以外に楽しみがなくなる ⇒ 大会上位入賞者やPS2版の出場機体、スタッフ製作の強機体との対戦が可能に。
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敗北後、一度メニューに戻らないと再挑戦できない→敗北後即リトライ可能
PS2版
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5シーズン以内のシーズン制覇という目標こそあるが、明確な「クリア」ではなく、プレイする限り何度でもシーズンが重ねられる。その途中で一部のチームが機体構成を変更したり、新チームが加入したりすることでプレイヤーを飽きさせないように工夫がされているのだが……。
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機体構成変更についてはせいぜいマイナーチェンジ程度で、対策を練ればその後ずっと同じ対策で処理出来る。シーズンやグランプリごとに機体構成をちょくちょく変えてくるということをしないので、1~2周で見慣れてしまう。
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コツをつかんでしまうと早い段階で「どのチームにも安定して勝てる」チームが構築できてしまうので、そうなると自分から挑戦しない限り、ほぼ作業ゲーと化す。
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追加チームはどれも弱い。特に全機体がネタレベルの「オッセルヴァトーレ」は悲惨で、手慣れたプレイヤーならば対策せずとも容易に勝つことができる。ACシリーズ恒例の「強い補充キャラ」も存在しない。
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これ以外にも、戦闘における様々な記録を狙う「レコード」や、報酬のオペレーションチップなど飽きさせないような要素はあるのだが、レコードはまだしも、オペレーションチップに関しては「いらないチップがどんどん貯まる」程度の感覚でしかない。ガチ対戦に必要なチップは正直1~2周で集まってしまう。この結果、本作の奥深さを体感するまでに挫折してしまう・飽きてしまう人も多くいたと思われる。
総評
前作『NB』の悪評もあり一部店舗では投げ売りの憂き目にあった作品だが、別段クソゲーというわけではなく、じっくりシステムを理解すればとても楽しめる良ゲーと言える。
特に、ユーザーに指摘されていた欠点を改善したint版は評価も高く、シリーズの名に恥じぬ内容を誇る名作と言って差し支え無いだろう。
近年の『NB』のゲームバランスを評価する動きと共に再評価されたこともあり、一部では続編を望む声も高い。
余談
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PSP版チーム「シュツルムアプタイルング」が、int版にて英語版のみチーム名とそれに伴いエンブレム文字が変更されている。
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ナチス関連を連想させる類のネーミング故に、変更されたと思われる。
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PS2版でのリーグ戦では、プレイヤー以外のチーム同士の試合は観戦しなければ結果のみが表示されるが、弱小チームが強豪チームを破ったり、どう見ても1機撃破が限界のu-ACで5機抜きしたりと試合結果には謎が多い。
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また、重装型の多いチームの勝率が妙に高く、逆に中・軽量級の多いチームは負けやすい。そのため、設定上最強と謳われる強豪チーム「シュバルツヴォルフ」がそこらのチームに敗れ、ランキング中位あたりに落ち着く光景も珍しくない。
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本作発売後約9年の時を経て発売されたシリーズ最新作『ヴァーディクトデイ』では、「UNAC(ユーナック)」と呼ばれるAI機体を自分の手でカスタム出来る要素が追加された。
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あくまでUNACは作品のサブ要素ではあるが、公式でも「アーキテクト再び」と、かつてACFFをプレイしていたアーキテクトに対してこの要素をアピールしている。
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UNACは本作以上に細かなカスタマイズを行うことが可能であり、UNACのノウハウを使っての本作の続編を望む声もある。
最終更新:2023年06月30日 19:56