SIREN: New Translation

【さいれん にゅー とらんすれーしょん】

ジャンル ホラーアドベンチャー
対応機種 プレイステーション3
発売・開発元 ソニー・コンピュータエンタテインメント
発売日 2008年7月24日
定価 5,980円
レーティング CERO:D(17才以上対象)
廉価版 PlayStation3 the Best:2009年7月9日/3,619円
配信 PS Store:2008年12月11日/4,285円
判定 なし
ポイント 海外向けの『1』リメイク
グラフィックとクオリティは大きく進化したが…
特有の和製ホラーが薄まって海外ドラマ風へ
ストーリーはさらに難解へ
SIRENシリーズSIREN - SIREN2 - SIREN:NT
SIEワールドワイド・スタジオ作品



赤い海から絶望のサイレンが鳴り響く



概要

ソニーのホラーアドベンチャー『SIREN』シリーズの第3作。略称は『NT』となっている。
シリーズ第1作『SIREN』と同じ内陸の寒村、羽生蛇(はにゅうだ)村を舞台とした作品である。
タイトルの「New Translation」は「新訳」といった意味で、続編ではなく『1』の海外向けリメイクといった側面が強い。
シナリオは『1』の登場人物を一新して再構成しており、細かい部分では『1』をリスペクトしたような部分が出ているが、設定などは大きく異なる。
特に登場人物のほとんどが外国人であり、演出面も和製ホラーだった前二作と比べると海外ドラマ風なものとなっている。


ストーリー

2007年8月3日のこと。主人公であるアメリカ人留学生の少年ハワード・ライトは、突然届いた謎のメッセージによって山奥の羽生蛇村を訪れた。
そこで人を殺害する儀式を見た彼は、儀式を阻止しようと飛び込んだ結果怪異に巻き込まれることになる。

一方、「日本の山奥に生贄の習慣の残る村があった」という噂を聞きつけやってきたアメリカのTVクルーもその儀式を目撃していた。
リポーターのメリッサ・ゲイルとカメラマン兼ディレクターのソル・ジャクソン、メリッサの元夫で大学教授のサム・モンローとその娘のベラ。
彼らもまた怪異に巻き込まれ、30年前に消えたはずの村と儀式の真相に迫っていく…。


特徴

主に前2作と異なる点について解説する。

シナリオ面

  • 「終了条件2」が廃止された。ステージはドラマのエピソードのように構成され、さらに各エピソードがチャプターごとに分かれている。
    • エピソードは全部で12(毎週放送のドラマなら1クールの構成)であり、エピソードごとに前エピソードのあらすじと次回予告が入るなどこの点でも海外ドラマ風の演出になっている。
    • パッケージ発売前には先行ダウンロード販売も行われ、初日はチャプター1と2のみプレイ可能だが1日1チャプターずつ解禁され、パッケージ版発売日に全チャプターが遊べるシステムがとられた。
  • これに伴い従来のリンクナビゲーターシステム*1も完全に廃止された。シリーズの象徴と言えるシナリオ面のシステムをほぼ完全に変えており、大胆な変更である。

アクション部分の大きな調整

  • これまでは『バイオハザード』シリーズのように、武器を構えるボタンを押しながら攻撃ボタンを押すことで攻撃という形になっていたが、本作では攻撃が1ボタンのアクションに簡略化された。
    • これによってダッシュ攻撃も可能となった。銃のみは構えボタンを押す必要があるが、照準の移動が右スティックで行うようになり狙撃銃を構えながら移動することができるようになった。
    • また、ダウンした相手への追い打ちや特定条件下などで敵を即死させるムービーが入る攻撃「フェイタルムーブ*2」の追加など、戦闘のアクション性は従来より強化されている。
    • 素手での攻撃は前作では一部キャラのものしかダメージが無かったが、本作ではほぼ全員ダメージが設定されている。
  • 今までボタンを押してリストメニューを一旦開いた上で行っていた操作が、本作では方向キーに割り当てられこちらも1ボタンで行えるようになった。
  • モーションセンサーに対応。敵の攻撃を振りほどく動作などはコントローラーを振ることによって行う。
  • 持久力の概念が無くなった。これによりダッシュを続けてバテてしまい移動速度が低下するということはなくなっている。
  • 武器の切り替えは廃止され、拾った武器の代わりに現在装備している武器を置くようになっている。

視界ジャックの仕様変更

  • 本シリーズを象徴するシステムだが、本作では操作キャラと相手の視界とで横に2分割されて表示されるようになった。
    • さらに画面上に最大3つまで相手の視界の表示が可能で、これによって複数の視界を一度に見ることが可能になっている。
  • 前作ではあるキャラしか使えなかった「視界ジャックをしながらの移動」が、本作では全キャラで可能となっている。

敵の種類

  • 敵の種類は『1』と同じ、赤い水の影響で変化した屍人である。前作の闇人は登場しない。
    • 人型のものは素手での攻撃パターンが増加しており「フェイタルムーブ」まで繰り出してくるなど、『1』のもの以上にある意味では凶暴ではあるが、銃器を用いるものは割と少なくなっている。
  • 犬屍人は登場しない代わりに怪力屍人が登場。巨大な姿をしておりプレイヤーには扱えないような大きな物体を武器にしたり投げつけたりする。
    • 耐久力・復活速度・攻撃力のいずれもが高く、大抵はイベントでやりすごすもので敵と言うよりは障害物に近い。
  • 変異屍人は『1』では深海の生物を思わせる姿をしたものが多かったが、本作では虫をイメージした姿のものが多い。虫嫌いは鳥肌が立つかもしれない。

評価点

  • グラフィックの進化。
    • 次世代機にハードを移したこともあって、ポリゴンの質はさらに向上。場面によっては実写と錯覚してしまいそうな高いクオリティのグラフィックとなっている。
  • 『1』の再構成ということで、ステージも『1』と同じ地名の場所が出て来るが、作り直され全くの別物になっている場所が多い。
    • 「田堀の廃屋」は変わっていないものの、本作では電気が付いて生活感が出ており、『1』より怖さを感じるステージになっている。
  • 操作性の向上。前作のそれよりも親切な設計に。
    • 特徴で述べたとおり、操作が簡略化され特にリストメニューの廃止もあってスムーズに動きやすくなっている。
    • また、持久力の廃止によってスタミナ回復を待つ必要も無くなった。
  • 個性的なキャラクターとストーリー。
    • ほとんどが外国人で台詞も英語(日本語字幕)であるが、発言の内容にはそれぞれのキャラの特徴が立っており、アーカイブなどでそれぞれの思惑を垣間見ることができる。
    • 『1』の登場人物がベースであるものの、人数が少なく一つのキャラに複数の役割を詰め込んだキャラもいるため、より個性的なキャラとなっている者もいる。
      • ちなみに、ヒロイン・美耶古は『1』のヒロイン・神代美耶子と同じ岡本奈月氏が演じている*3。『1』から時間が経過して成長した彼女の姿に驚いたファンも多いのではないだろうか。
    • 主人公のハワード・ライトが片言で話す日本語がかわいらしいというファンもいるとかいないとか。
  • 武器の種類が豊富でこんな物まで武器になるのか?と思わせてくれる。
    • 「なた」や「包丁」は分かるが「灰皿」「アルトリコーダー」「テレビカメラ」などネタに走っている物も多い。ネタ武器の多くは役に立たないが。
    • 『1』でお馴染みの「火掻き棒」や「ネイルハンマー」なども登場。ただしネイルハンマーの威力は平凡なものとなっており、「宮田が使うと真の威力を発揮する」「釘を抜く方を使ってない」などとネタにされた。

問題点

  • 『SIREN』シリーズらしさが大きく失われてしまっている
    • 和製ホラーの雰囲気を押し出してきたシリーズ作品が、突然B級海外ドラマ風になってしまったことに戸惑ったファンは多い。
      • 実質『1』の再構成である所為で、余計に「そうする必要があったのか?」と首を傾げてしまう、日本の辺境の寒村に複数の外国人がやってきて…という時点で「?」となる人もいるだろう。せめて新規の物語だったらこの点は緩和されていたのだろうが。
    • 操作性は向上したが、真っ先に修正されそうな「照準操作が過敏な狙撃」といった部分は直っておらず、妙な不便さが残っている。
    • 敵が使う銃器の威力も割と下がっており、数発ほど耐えることも可能である。
    • フェイタルムーブなど演出はスタイリッシュだが、やはり和製ホラーっぽくは…というか、動きが民間人っぽくない。「いつから『SIREN』はスタイリッシュアクションゲームになった?」とまで言われることも。
      • 爽快なアクションが見られるのはそれはそれで面白いが、「にじり寄ってくる恐怖」といった感じは大きく無くなっている。ある意味、ホラーとしては致命的。
    • 敵のデザインも気持ちが悪いことは悪いが、深海生物のイメージから虫をイメージするデザインになったことで「不気味というより不快になっただけ」という声もある。
    • BGMも『SIREN』らしさがない…というよりホラーっぽくない物が多い。
  • ボリュームの減少
    • 終了条件が1つだけになったためアーカイブの獲得以外には特に同じステージを回る必要はなくなったが、その分ボリューム自体は大きく減少してしまっている。
    • 無論「シナリオをクリアするために別のシナリオで条件を満たす」と言った要素も無い。シナリオを追うだけなら1周クリアするのに10時間もかからないぐらいである。
    • アーカイブも前作以前の100から50に減少してしまっている*4。情報収集の楽しみも目減りした感はある。
    • リンクナビゲーターシステムも廃止され、途中の攻略も完全な一本道となってしまった。以前の作品では結末自体は一つしかなかったものの、そこに至るまでの攻略はある程度自由に行うことができたが、本作はそういった余地が全くない。
      • また、条件を満たす事で出現する隠しステージやムービーも存在しない。
    • 難易度はイージーとノーマルのみで、ハードモードが存在しない。ノーマルモードのクリアや何らかの条件を満たせば、『1』並みの難しさを味わえるハードモードが解禁されるのでは、という旧来ファンの期待を裏切る結果となった。
  • ストーリー
    • わかりづらいのはもはやシリーズの恒例となっているのだが、本作は『1』のそれをベースとしている上に謎めいた結末を迎えるキャラが少なく、ストーリーやアーカイブで語られる情報もそこそこわかりやすいため従来ほど難解ではないという声も多い。これを「内容が浅い」と捉える向きもある。
      • アーカイブの数が少ないのも余計に拍車をかけているだろう。
    • 以前の作品では『1』の海還りや『2』の人魚など「海」を連想させるキーワードが多く、それに伴い敵の深海生物的なデザインも独特の説得力と生々しさがあったのだが、本作のストーリーには「海」を連想させるものは特にない。
    • 敵デザインの変更に合わせたものだと思われるが、敵の変化については海還りの設定が無くなったのでいまいち説得力に欠けることになってしまった。
    • 屍人に触れられただけでゲームオーバーとなってしまうキャラが、ムービーでは屍人の手に噛みついて危機から逃れるというものがあり、設定と仕様に齟齬が見られる。
      • もっとも、ストーリー上は『1』の同じ役割のキャラと違って「屍人(怪異)に触れてはいけない」という特別な理由はない。が、それならそれでなおのこと触れただけでゲームオーバーになるというのはシビアすぎである。戦闘は不可能なキャラであるし、そこまで高い難易度というわけでもないが。
      • 単純に子供が惨殺される描写を入れるのが倫理的に不可能だからかもしれない。前作『2』の子供キャラも特に敵に触れてはいけない要素が無いにもかかわらず敵に接触=ゲームオーバーであった。しかもそのステージの敵は普通の人間である。
    • わかりづらい以前に「この人物はどうしてその行動に至ったのか?」という点について不可解な部分がある。

総評

ゲームとしてはグラフィックの質も操作性も大きく向上しており、ボリューム面の問題はあるが間違いなく前作から出来がよくなっていると言えるだろう。
とは言え、あくまで前作と比べて操作性が良くなっているだけであり、一般のゲームの中では低レベルな操作性であり、それが理由で理不尽に難易度が上がっているのは否めない。
ホラー作品である以上、怖さを前面に押し出すべきなのだが、怖さを体感する以前に操作性のストレスを常に味わい続けることになるため、ストーリーや作品世界へ入り込むことができないのでは意味がない。

問題は「本作がシリーズの一作品としてはどうか?」この点に尽きる。
やはり今までの魅力であった和製ホラーテイストをほぼ排除し、象徴ともいえるシナリオのシステムを排除してまで新たな魅力を得られたか?と問われると、本作は間違いなく失敗と言っていい。
とはいえ、1つのゲームとしては大きな問題を抱えているということはなく、本作が初めてという方がプレイする分には特に問題の無い佳作である。
ただ、本作のプレイ後に以前の作品をお勧めできるかはまた別の問題だが…。


余談

  • 本作品が海外を意識した作風になっているのは、サム・ライミ氏*5主宰の映画スタジオ「GHOST HOUSE PICTURES」が『SIREN』の映画化権を獲得し企画していた映画作品との連動作という企画が元になっているからである。その話が頓挫したために、単独の作品として味付けして制作されることになったとのこと。
    • しかし、海外を意識する内容となりながら肝心の海外での評価はあまり高くなかったらしく、「日本のゲーム会社が海外進出にあたって、下手に海外向けを意識して従来作とテイストを変えた作品を作ると失敗する」というジンクスに当て嵌まる形となってしまった。
    • ディレクター・外山圭一郎氏自身も公式インタビューでこの点を反省点として挙げており、国内での評価もファンの間では賛否両論に分かれている。
  • アーカイブの中に作中世界でミリオンセラーを記録したという設定の曲「恋の三角海域SOS」があるが、その歌詞の内容のネタっぽさと無駄にいい出来の曲から評価は高い。
    • 外山氏はインタビューにて、この1曲にエンディング以上の予算をかけていると発言している。この曲自体のクオリティとゲーム本編の評価を考えると、良くも悪くも「力の入れどころを間違えている」と言えるだろうか。
  • 『SIREN』シリーズと言えば「怖いCM」だが、本作のCMも怖いものがある…と言うよりびっくりするかもしれない。
  • 本作ではホラーゲームの作風に今一つ合わなかった「フェイタルムーブ」だが、製作陣の次回作には作風にしっかり合致した形で受け継がれている。こちらではボスへのトドメの一撃となっている。
  • 本作を最後に『SIREN』は13年以上発売されておらず、シリーズが途絶えている。
    • 2013年11月にシリーズ10周年記念特番のニコニコ生放送にて外山氏はSIEが「ホラーゲームファンに絞るだけでは人気を届けられない」との命令で続編の製作許可が下りなかった裏事情が判明。
      • それから5年後の15周年記念に2018年8月の「SIREN展」でファンからの続編製作の質問も応じ、収益化を理由に商品として売れるか難儀していたことを話した。ただ外山氏は後押ししてくれたおかげで製作意欲は湧いたと語った。
    • 以降はSIEの動きもないまま時間が過ぎていき、2021年2月にはシリーズのディレクターである外山氏がSIEを退社。同時期にJAPANスタジオも解体されてしまったため、シリーズを取り巻く状況は絶望的である。
    • ファンの間では「最新機種のPS4/PS5に出しても高画質なグラフィックで『SIREN』の魅力が薄れてしまう」と危険視する意見も現れている。
      • なお、外山氏自身はSIEを退社後にBokeh Game Studioを立ち上げ、2021年12月に同スタジオの第1作となるホラーゲーム『野狗子: Slitterhead』を発表している。こちらは和風ではなく中華風のホラーとなる模様。

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最終更新:2024年04月07日 15:01

*1 時系列を縦に、人物を横に並べた表でシナリオ構成が見られるシステム。どの時間でどの人物がどのようなシナリオを体験しているのかが一目でわかり、シナリオ間のルートの繋がりや終了条件2のロック条件も確認可能。

*2 灰皿のような小型の鈍器の場合めった打ち、鍬なら相手の足をすくって転ばしたところに胸にたたきつける、拳銃で殴りつけた後頭が来る高さに銃を構えて、敵が姿勢を戻したところに発砲など結構残虐。本当にレーティングがCERO:D(17歳以上対象)なのかと思うほど。

*3 設定などは違うが役割もほぼ同一となっている。

*4 代わりに入手した武器の情報もアーカイブとしてこれとは別に記録される。

*5 『死霊のはらわた』や『スパイダーマン』で有名な映画監督。