火星物語
【かせいものがたり】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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アスキー
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発売日
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1998年10月22日
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定価
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通常版:7,140円 / 限定版:9,975円
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判定
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なし
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ポイント
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ラジオドラマ原作のメディアミックス作品 シナリオの評価は高い
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背景
昔々、まだ火星に文明が生まれていない遠い昔。
星の海を越えて火星に移住してきた古代文明人は、そこである強力なエネルギー体を発見した。
惑星の上を自由に往来し、意思を持って人々と接するそのエネルギー体を、古代文明人は
『風』
と呼び、
虹の七つの色になぞらえて名をつけて共存を始めた。
風と意思を交わす事が出来る人は
『風使い』
と呼ばれ、
彼らの活躍によりいつしか火星には高度な文明が作られるようになった。
しかし古代文明人は知らなかった。7色の風以外にも他の風があることを。
ひとつは
『黒の風』
。
知的生命体に邪悪な意思を植え付け、命を滅ぼす力を有する破滅の風。
そして黒の風を発生させる
『黒翼の堕天使』
という存在。
もうひとつは
『白の風』
。
自由の象徴であり、命を育む存在として黒の風と対を成すものだが、実際にそれを目にしたものはいない。
やがて古代文明人は黒の風と黒翼の堕天使を封ずるために力を使い果たし滅亡。
後に生まれた世界では、風に関する情報は殆どが失われ、一握りの人々にひとつの伝説が伝えられているだけだ。
「7つの風がひとつになった時、白の風が生まれ、黒の風を同化もしくは封印することができる」
という伝説が……。
風よ……命よ……!
(「火星物語 オフィシャルガイド」より一部抜粋、改変)
概要
AMラジオ「広井王子のマルチ天国」のコーナーで放送されたリスナー参加型ラジオドラマ「火星物語」シリーズのゲーム化作品。
本作のシナリオは、原作の3作目である「火星物語 ロマンシア3」を下敷きに1作目と2作目(ロマンシア1・2)を織り交ぜたものとなっている。
キャッチコピーは「家族にやさしいRPG」。
あらすじ
火星の西方にあるロマンシア大陸、その僻地。のどかな田舎村であるアロマに暮らす
少年A
は、もうすぐ12歳の誕生日を迎えようとしていた。
ロマンシアの少年たちは皆12歳を迎えると
「命名の儀」
を受け、名前と職業を授かる決まりになっていた。
だが、アロマの村長は駄洒落好きでネーミングセンスが皆無。
「村長の考えた変な名前じゃなくて、もっとカッコいい名前が欲しい!」
そう考えた少年Aは、同じく12歳になる親友の
少年B
と共に、大都会の
カンガリアン
で命名の儀を受けるために村を出る。
山あり谷ありの道程を越えて二人はカンガリアンに到着し、同じく地方から命名の儀を受けるためにやってきた
少女Y
と出会う。彼女はかつて存在したという
アロマ王国
の王女
クエス
に憧れを持っており、その伝説が語られる絵本を宝物として大事に持っていた。
二人はすぐに仲良くなり、彼女と共にカンガリアンを見て回る少年Aだったが、少女Yの持っている絵本とは真逆の歴史が語られていたり、ロボットのように片言で話す市民がいるなど、その実態は憧れのものとは少し異なっていた。一足先に命名の儀を受けた少年Bも様子がおかしく、少年Aと少女Yの事を忘れ去ってしまっていた。
二人が困惑していると、突如として少女Yの持っていた
チェーンウォッチ
が眩い光を放つ。少年Aが何かに導かれるようにして手を触れると、彼は光に包まれ意識を失う。
少年Aが誰かの声で意識を取り戻すと、目の前に広がる景色はカンガリアンとは全く違うものだった。そして彼を助けた少女は、自分は
クエス
だと名乗ったのだ……!
特徴・評価点
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全30話構成。シナリオを進め、各話の終わりに登場人物たちの寸劇、その後メニュー画面から次の話に進むのが大まかな流れ。
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キャストなど
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ナレーションに広井王子、主要人物の声に横山智佐、千葉繁などラジオドラマと同じ声優陣。
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当時、声優デビューして間もない豊口めぐみがヒロインの声を担当している。
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古川登志夫、水谷優子など、その他の声優陣も豪華。
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伊集院光などの著名人も声優として参加。
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キャラクターデザインはSF小説の挿絵や「まおゆう魔王勇者」などで知られる水玉蛍之丞。
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一部キャラクターのデザインは読者公募のデザインを採用している(後述)。
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ライトゲーマーを意識した作りとなっており、詰むような要素はほとんど排除されている。
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町などはエリア内でイベントをこなせば次に進むよう指標が出る。
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町内のエリア移動は自動、フィールドではスゴロクゲーム形式で移動など、ダンジョン以外で迷うことはない。
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エンカウントは固定。パーティは順当に強くなっていくので、レベルが足りなくて敵に勝てないといったことはない。
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重要アイテムは取り逃しても各話の終わりに手に入る。
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戦闘難度も全体的に低め。アイテムでの回復を怠らなければまず負けることはない。
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自由度の高い戦闘
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通称“アドリブバトル”。フィールド上で敵味方が入り乱れるタイプ。
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特に本作の特徴が「投げる」コマンドで、フィールド内にあるオブジェはもちろん、敵や味方まで投げられる。
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オブジェを投げて攻撃したり、敵同士をぶつけたり、味方を投げて敵との間合いを詰めたりすることができる。
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また「オブジェ」コマンドも個性的で、箱を調べると飛び乗ってジャンプ攻撃、雪を調べると雪玉を作って投げつけるなど、多彩な動きを見せてくれる。
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壮大なシナリオ
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火星に人間や様々な人型の生物が住む時代。この世界では12歳になるまでは記号で呼ばれ、12歳になると「命名の儀」によって名前と職業が与えられる。11歳の主人公「少年A」は命名の儀を受けるため、仲間と共にカンガリアンという国へと旅立つ。
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彼らはやがて世界の不可思議な情勢を知り、過去に遡り英雄たちと肩を並べ、自らの使命に気づきそれに突き進んでいく。
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物語の舞台であるロマンシアには、「風」と呼ばれる不思議な存在がおり、それと心を交わす人々は風使いと呼ばれていた。
しかし、少年Aの時代では、「風」も「風使い」も伝説上の存在とされている。
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主人公である少年Aと、異なる時代の風使い達の邂逅が、本作のメインシナリオである。
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ストーリーは大別して、現代である「少年A(主人公)編」、それより400年程過去の「クエス編」、さらに200年前(現代から600年前)の「アンサー編」の3パートに分かれている。
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少年Aは、カンガリアンで出会った「少女Y」が持つ「チェーンウォッチ」の不思議な力によって、3つの時代を行き来することになる。
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「アンサー編」は、少年Aの時代にアロマ王国建国王と伝えられる伝説の風使いアンサーとの出会いで、彼がいかにして建国へと至ったのかを知る。
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天真爛漫そのもので、超が付くほどのお人よし少年「アンサー」と、その親友でありスケベで屁こきだけども凄腕剣士であるイヌ族の「ポチ」と共に、さらわれたお姫様を助け出すという冒険譚。
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3パートの中で最も明るい雰囲気で、コミカルかつ牧歌的。一方、長きに渡る少年Aと「黒の風」との因縁の始まりの時代でもある。
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少年Aの時代からは最も離れているが、それを利用してある人物の窮地を救うという場面も。
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「クエス編」は、アロマ最後の風使いクエスと、滅びゆくアロマ王国の悲哀を描いた戦争の物語である。
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少年Aの時代ではアロマを滅ぼした張本人であるとされる女王「クエス」と、クエスの相棒兼師匠でありスケベながら腕の立つ「サスケ」と共に、戦争を仕掛けてきた大国、アショカ法国に抗う。
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この時代、アロマ王国はアショカ法国との戦争の真っ最中であり、その為ストーリーも暗く、重い。
アンサー編から一転、救いようの無いエピソードが続く。
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また、ふとした事からクエスとサスケは、「ある未来」を知ってしまう。その後、彼女たちがとった選択は……。
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「アンサー編」、「クエス編」の中心として物語を総括するのが「少年A編」である。
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「少年A」は、様々な場所と時代を渡り歩き、絵本に伝わる“英雄”クエスに憧れる「少女Y」や、変わり者だが人間以上に人間臭いロボット「タローボー」を始めとした多くの人と出会いを経て、やがてはるか昔からの火星に悲劇をもたらしてきた悪意に立ち向かう事になる。
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「家族に優しい」というキャチコピー通り全体的には心温まるストーリーではあるものの、物語の要所では出会い、そして別れ、時には死による別離が交差する。単なる子供騙しではない。
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システムが名前と職業を決定する「命名の儀」や人の意思を制御する「Aチップ」という不気味なシステムを始めとして、人間の尊厳や自由の意味といったテーマが根底にある。
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ストーリーは原作から再構成されているものの、よくまとまっており丁寧に描写されている。
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原作に当たるラジオドラマ『火星物語』は、広井王子の台本を番組収録時に即興で録音するという形で放送されており、加えて台本の大元はリスナーのハガキ、と極めて自由度の高い作風だった。
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基本的なテーマは定められていたものの、場当たり的なアドリブも数多く(
特に千葉繁氏
)ゲーム化に際しての再構成は不可欠であったと思われる。
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では、そんな良くも悪くも混沌とした部分のあった原作独特の空気が失われているのかと言うとそんな事は無く、話の本筋に関わる部分は真摯に、少々楽屋ノリの入ったおふざけ混じりの部分は「幕間」や、ボイス無しのちょっとした会話などに、とメリハリを上手くつけている。
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キャラクターは個性豊かで、声優の熱演がそれを際立たせている。
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ただ、一部声優が本業ではないキャストが居るため、数人演技力に疑問のあるキャラクターも……。
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少なくともパーティインするようなメインキャラクターの声優陣に関しては何の問題もない事は保証できる。
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フルボイスではなくパートボイス制なものの、シナリオの要所と「幕間」は必ずボイスがつく。ストーリーが全30話からなる事を考えても、よくDISC1枚に収まったものである。
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コンセプトの一つは「ポリゴン人形劇」だが、キャラクターもそれを感じさせる愛らしさがある。
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正直にいってポリゴンの出来自体は当時の目線で見ても粗いが、デザインの特徴をよく掴んでおり、表情や動きも分かりやすい。
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先述の「幕間」は本当に人形劇(風ポリゴン)だったりする。
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エネミーも個性豊かなデザイン。その半数以上は、「週刊ファミ通」誌上で行われた読者公募によるデザインを採用しており、戦闘中の行動も投稿者が考えた設定をある程度反映している。
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ちなみに、主人公の少年Aもその公募によってキャラクターデザインが決定されている。
問題点
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ライトゲーマーを意識した作りと書いたが、悪く言えばヌルく、RPGとしては物足りない。
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固定エンカウントなので、キャラを強くする楽しみに欠ける。
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フィールド移動は一本道どころか一方通行。
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一方通行でも支障がないシステムにはなっているが、移動に自由がないので「やらされている」感が強い。
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また、全ての部分でライトゲーマーに優しい作りになっているかといえば一概にそうでもなく、一部で不親切だったり難易度が高いものがある。
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例の一つにスゴロクマップがあり、運要素が強いゲームなのにクリア条件が徐々にきつくなっていく。
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規定ターン数以内にゴールまでたどり着けないとやり直し。また、後ろからエネミーに追われる場合もあり、その場合は追いつかれてもやり直し。
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ただしルーレットは(タイミングがシビアながら)完全に目押し可能。また、やり直しになっても特にペナルティは無いので、道中の戦闘や宝箱を利用した稼ぎにも使える。時間はかかるが。
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戦闘ではダメージが星の数で表示される。こちらの攻撃がどれ位の威力かは曖昧にしか分からない。
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ダンジョンは通れる場所と通れない場所の境目が曖昧。
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ダンジョン以外のマップは完全一方通行かつ移動ポイントを表示してくれるので、ギャップに戸惑う。
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劇中で展開されるアクションミニゲームが蛇足気味。
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数種類存在するが、半数以上がコントローラーから手を離していてもクリアできる程簡単。はっきり言ってムービーシーンと変わらない。
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前述のスゴロクは早く解くとレアアイテムが貰える等のメリットがあったが、こちらはそういった要素は皆無。デメリットすらない。
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「ストーリー上の長距離移動シーンを操作可能にしただけ」といったものが多く、またその関係で殆どがクリア必須・スキップ不可な為テンポを悪くしている。
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唯一クリア必須でない縦スクロールシューティングのミニゲームは比較的良い出来で、一般的なシューティングゲームの1ステージ相当がシステム含めきちんと作られている。
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ゲーム全体のテンポがよくない。
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移動パートから戦闘パートに切り替わるまでに十数秒かかり、敵味方共に攻撃などのエフェクトやモーションが長い。
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スゴロクパートもそれぞれのギミックやキャラの動きが緩慢。
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戦闘でキャラを移動させていると、途中でオブジェや他のキャラに引っかかることが多い。挙句にその移動速度もかなり遅い。
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セーブできる場面は各話の終わりだけ。リトライはできるが制限つき。このテンポでセーブポイントからやり直すのは辛い。
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本作の特徴ともいえる「投げる」コマンドだが、実際のところ使い勝手が悪い。
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投げるまでの行程が長く、敵から阻害されやすい。また、投げる対象が移動中だと持ち上げようとしても失敗しやすく、投げても外すことがある。
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投げられないものも選択できてしまうため、キャラの行動を浪費してしまいやすい。
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オブジェはフィールド毎に異なるため、投げられるかいちいち確認する位なら他の行動に移した方がいい。
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序盤は遠距離攻撃や味方を移動させる手段として使えるが、中盤以降はタメの少ない遠距離攻撃をそれぞれ使えるようになるため使い道がほぼなくなる。
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しかし、そこまで効率を求めなければいけないほど本作の戦闘難易度は高いわけではないので、戦闘方法を偏らせず色々と模索してみるのも楽しみ方の一つではある。
総評
シナリオやシステムにハマり名作とする人や、ゲーム全体のテンポの悪さやRPGとしての物足りなさから駄作とする人もいる。
ライトゲーマーを意識したシステム作りは、その人がRPGに何を求めるかによって評価は違うが、シナリオを高く評価する人は多い。
余談
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限定版には主要人物5人のフィギュア、ジオラマセット、コロコロスタンプ、主要人物の一人クエスのピアスと黒パン柄のハンカチ、同じくポチの顔柄の名刺入れが付属。
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原作は「ロマンシア」シリーズの他に7作(ナンバリングでいうと4~10)存在するが、メディアミックスしたのは「ロマンシア」シリーズのみである。本作の他には「1」がベースの小説『火星物語 ロマンシア』と、「2」がベースのマンガ『火星物語 五月の花嫁』がある。
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本作の攻略本は「オフィシャルガイド」の他、原作と本作を繋ぐガイドブックという位置づけの「オフィシャルスターターブック」がある。
最終更新:2021年05月02日 19:22