総括所見:アメリカ(OPAC・2008年)


CRC/C/OPAC/USA/CO/1(2008年6月25日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2008年5月22日に開かれた第1321回会合(CRC/C/SR.1321)においてアメリカ合衆国の第1回報告書(CRC/C/OPAC/USA/1)を検討し、2008年6月6日に開かれた第1342回会合において以下の総括所見を採択した。
2.委員会は、締約国の第1回報告書を歓迎し、かつ事前質問事項に対する文書回答に留意する。委員会は、国防総省の代表も含んだハイレベルな部門横断型代表団との建設的対話を評価するものである。
3. 委員会は、締約国に対し、この総括所見は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して同日に採択された総括所見(CRC/C/OPSC/USA/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

A.積極的側面

4.委員会は以下のことを歓迎する。
  • (a) 紛争を経験しているまたは紛争後の状況下にあるいくつかの国々で行なわれている、子ども兵士のリハビリテーションおよび再統合のためのプロジェクトに対する締約国の貢献。
  • (b) 18歳未満のときに犯罪を行なった者に対する死刑を廃止した2005年の最高裁判決(Roper v. Simons)が軍事裁判制度にも適用される旨の、締約国からの情報。
5.委員会はまた、締約国が以下の文書を批准したことも歓迎する。

I.実施に関する一般的措置

留保
6.委員会は、批准時に「了解」として提出された、選択議定書の規定の制限的解釈を遺憾に思う。
7.委員会は、武力紛争の状況にある子どもの保護を向上させるため、締約国が、選択議定書の規定に関する了解を撤回の方向で見直すよう勧告する。
普及および研修
8.委員会は、締約国の軍隊の構成員を対象とする研修で選択議定書の規定が取り上げられていないことを遺憾に思う。
9.委員会は、締約国に対し、軍隊のすべての構成員、とくに国際的作戦に従事する者に対し、選択議定書に関する研修(第6条第3項および第7条の義務に関するものを含む)を行なうよう奨励する。
10.委員会は、子どもに対応する専門家、とくに教職員、移民担当機関、警察、弁護士、裁判官、軍事裁判官、医療専門家、ソーシャルワーカーおよびジャーナリストを対象として、選択議定書の規定に関するさらなる研修が行なわれるべきであることを勧告する。
データ
11.委員会は、軍に在籍する18歳未満の志願兵の人数に関して提供された男女別および民族別の統計に留意する。さらに委員会は、子どもが徴募されまたは敵対行為において使用された可能性がある国からやってきた子どもの難民および庇護希望者に関して提供されたデータに留意するものの、当該統計では保護者のいない子どもしか対象とされていないことを遺憾に思うものである。
12.委員会は、締約国が、18歳未満の志願兵に関する男女別および民族別のデータが利用可能とされることを確保するよう勧告する。さらに委員会は、締約国に対し、その管轄内にあり、かつ徴募されまたは敵対行為において使用された可能性があるすべての子どもを特定しおよび登録するため、中央データ収集システムを設置するよう勧告するものである。とくに委員会は、締約国に対し、そのような慣行の被害を受けた子どもの難民および庇護希望者に関するデータが利用可能とされることを確保するよう、勧告する。

II.防止

武力紛争への参加
13.委員会は、18歳未満の軍隊構成員が敵対行為に直接参加することを回避するために締約国が行なった政策改訂に留意しながらも、締約国が、2003年および2004年に、アフガニスタンおよびイラクに18歳未満の志願兵が配置されることを防げなかったことを懸念する。
14.委員会は、締約国が、兵の配置に関する政策および実務が選択議定書の規定に一致することを確保するよう勧告する。
志願入隊
15.委員会は、志願入隊に関する17歳という年齢が志願者の法定後見人の同意がある場合にのみ有効であることに留意する。委員会は、新兵募集担当者が、民族的および人種的マイノリティに属する子ども、単身女性が筆頭者である世帯の子どもならびに低所得家庭および脆弱な立場に置かれたその他の社会経済的集団の子どもを標的にしていることを示す報告があることを、懸念する。さらに委員会は、新兵募集担当者による違法行為および威迫的措置の使用が報告されていることを懸念するものである。委員会は、新兵を募集する目的で「ひとりの子どもも落ちこぼれさせない法」を用いることが、子どものプライバシーおよび不可侵性の尊重ならびに親または法定後見人の事前同意要件と両立しないことを遺憾に思う。委員会はさらに、親に対し、学校が新兵募集担当者に対して情報を開示しないことおよび新兵募集手続の最終段階では親のみが関与することを要請する権利について、情報が全面的に提供されていないことを懸念するものである。
16.委員会は、締約国に対し、全般的により厳格な法的規準を通じて子どもの保護を促進しおよび強化するため、軍への入隊に関する最低年齢を再検討し、かつ18歳に引き上げるよう奨励する。
17.委員会は、締約国が、新兵の募集が人種的および民族的マイノリティならびに低所得家庭および脆弱な立場に置かれたその他の社会経済的集団の子どもをとくに標的にするようなやり方で行なわれないことを確保するよう、勧告する。委員会は、18歳未満の志願入隊者がその権利(予備入隊制度(DEP)を通じて兵籍を免除される可能性も含む)について十分な情報を提供されることの重要性を強調するものである。
18.委員会はさらに、新兵募集キャンペーンの内容を緊密に監視すること、ならびに、新兵募集担当者による不正または違法行為のいかなる報告についても調査し、かつ必要なときは制裁の対象とすべきことを勧告する。新兵募集担当者による違法行為のおそれを低減させるため、委員会は、締約国に対し、志願入隊者の人数割当が新兵募集担当者の行動に及ぼす影響を注意深く検討するよう勧告するものである。最後に委員会は、締約国に対し、「ひとりの子どもも落ちこぼれさせない法」(20 U.S.C., sect. 7908)が新兵募集のために子どものプライバシー権または親および法定後見人の権利を侵害するような方法で用いられないことを確保するため、同法を改正するよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、すべての親が新兵募集手続について十分に情報を提供され、かつ、学校は親の事前の同意を得た場合を除いて新兵募集担当者に情報を開示しないよう要請する権利について承知していることを確保するよう、勧告するものである。
軍事学校および軍事訓練
19.委員会は、高等学校において少年予備役将校訓練部隊(JROTC)が広範に活用されていることに留意するとともに、11歳という若年の子どもが中学校軍事教練隊の訓練に登録できることに懸念とともに留意する。
20.委員会は、締約国が、子どもを対象とするいかなる軍事訓練においても人権の原則が考慮されること、および、その教育内容が連邦教育省によって定期的に監視されることを確保するよう、勧告する。締約国は、若年の子どもを対象とする軍隊様式の訓練が行なわれないように努めるべきである。

III.禁止および関連の事項

立法
21.委員会は、合衆国戦争犯罪法(18 U.S.C., sect. 2441)で一部の戦争犯罪につき域外裁判権が設定されていることには積極的な要素として留意しながらも、選択議定書が対象とする犯罪が刑事法に具体的に掲げられていないことを懸念する。委員会はさらに、合衆国刑法に15歳未満の子どもの徴募を含めようとする2007年子ども兵士責任追及法案にも留意するものである。
22.子どもの徴募および敵対行為における子どもの使用を防止するための保護措置を強化するため、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもを徴募することおよび子どもを敵対行為に参加させることに関わる選択議定書の規定の違反が、締約国の法律において明示的に犯罪とされることを確保すること。これとの関連で、締約国は、2007年子ども兵士責任追及法案の制定を早期に行なうよう勧告される。
  • (b) これらの犯罪が締約国の市民権を有する者または締約国とその他のつながりを有する者によってまたはこのような者に対して行なわれた場合にもこれらの犯罪についての裁判権を設定することを考慮すること。
  • (c) 軍のすべての規則、教範その他の訓令が選択議定書の規定にしたがうことを確保すること。
23.委員会は、子どもの権利の保護をさらに向上させるため、アメリカ合衆国が続いて子どもの権利条約の締約国となるよう勧告する。
24.さらに委員会は、締約国が、国際社会ですでに広く支持されている以下の国際文書の批准を検討するよう勧告する。
  • (a) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)(1977年)。
  • (b) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書II)(1977年)。
  • (c) 対人地雷の使用、貯蔵、生産および移譲の禁止ならびに廃棄に関する条約(1997年)。
25.委員会は、この点に関わる委員会の慣行にしたがい、締約国に対し、国際刑事裁判所ローマ規程(2001年)に関わる自国の立場を再検討するよう慫慂する。

IV.保護、回復および再統合

身体的および心理的回復のための援助
26.委員会は、徴募されまたは敵対行為において使用された可能性がある子どもの難民または庇護希望者を特定するための措置が不十分であることを、遺憾に思う。さらに委員会は、過去に徴募されまたは敵対行為において使用されたことのある子どもの難民または庇護希望者が、特定の社会的集団の構成員であることを理由とする迫害も主張しなければ保護を受ける資格を認められない可能性があることを、懸念するものである。
27.委員会は、締約国が、とくに以下の措置をとることにより、アメリカ合衆国にやってくる子どもの庇護希望者および難民であって国外で徴募されまたは敵対行為において使用された可能性がある者を保護するよう、勧告する。
  • (a) 子どもの難民および庇護希望者のうち国外で徴募されまたは敵対行為において使用された可能性がある者を、可能なかぎり早い段階で特定すること。
  • (b) 子どもの徴募および敵対行為における子どもの使用を、難民資格を付与する事由としての迫害の一形態として認めること。
  • (c) 国外で徴募されまたは敵対行為において使用された可能性がある子どものための情報へのアクセス(ヘルプラインを含む)を向上させ、これらの子どもが利用可能な法律助言サービスを強化し、かつ、18歳未満のすべての子どもに対して時機を失することなく後見人が任命されることを確保すること。
  • (d) このような子どもの状況のアセスメントを慎重に行なうとともに、選択議定書第6条第3項にしたがい、その身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための、即時的な、文化的に配慮された、かつ分野横断的な援助を提供すること。
  • (e) 移民担当機関内で特別訓練を受けた職員が利用可能とされること、および、このような子どもの送還に関わる意思決定手続において子どもの最善の利益およびノン・ルフールマンの原則が第一次的に考慮されることを確保すること。
  • (f) この点に関わってとられた措置に関する情報を次回報告書に記載すること。
捕虜とされた子ども兵士
28.委員会は、イラクおよびアフガニスタンで合衆国が運営する拘禁施設に相当数の子どもがいることに留意する。委員会は、イラクで拘禁されている子どものための教育プログラムを設置するためにとられた措置には留意しながらも、拘禁されているすべての子どもが教育にアクセスできているわけではないことを遺憾に思うものである。委員会は、法律助言サービスまたは身体的および心理的回復のための措置に十分にアクセスできないまま、長期間、場合によっては1年またはそれ以上の期間拘禁されている子どもの人数について懸念する。さらに委員会は、拘禁されている子どもに対して残虐な、非人道的なおよび品位を傷つける取扱いが行なわれているという報告について懸念するものである。
29.委員会は、グアンタナモ米軍基地に子どもが数年間拘禁されており、かつそこに拘禁されている子どもが残虐な、非人道的なおよび品位を傷つける取扱いを受けている可能性があるという報告を懸念する。さらに委員会は、徴募されまたは武力紛争において使用された子どもが、もっぱら被害者と見なされるのではなく「違法敵性戦闘員」に分類され、かつ、子どもとしての地位を正当に考慮されることなく、戦争犯罪で告発されかつ軍法会議における訴追の対象とされてきたことを、深刻に懸念するものである。
30.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの拘禁は最後の手段としてのみ行なうこと、および、拘禁されている子どもの総数が減らされることを確保すること。年齢に関して疑いがあるときは、若年者は子どもと推定されるべきである。
  • (b) 子どもが、たとえ戦争犯罪を行なった容疑がある場合でも、その年齢および脆弱性にしたがった適切な条件のもとで拘禁されることを保障すること。グアンタナモ米軍基地における子どもの拘禁は防止されるべきである。
  • (c) 親または近親者に子どもの拘禁場所を通知すること。
  • (d) すべての子どもに対し、十分な、無償のおよび独立した法的助言の援助を提供すること。
  • (e) 子どもに対してその拘禁の定期的かつ公平な再審査を保障するとともに、子どもについては当該再審査を成人よりも多い頻度で実施すること。
  • (f) 拘禁されている子どもが独立した苦情申立て機構にアクセスできることを確保すること。拘禁されている子どもの残虐な、非人道的なおよび品位を傷つける取扱いに関する報告は、公平なやり方で調査され、かつ当該行為の責任者は裁判にかけられるべきである。
  • (g) 拘禁されている子どもに対する告発の捜査は、公正な裁判に関する最低限の規則にしたがい、迅速かつ公平に行なうこと。子どもに対する刑事手続を軍事裁判制度のもとで進めることは回避されるべきである。
  • (h) 身体的および心理的回復のための措置(教育プログラムならびにスポーツおよび余暇の活動を含む)ならびに拘禁されているすべての子どもの社会的再統合のための措置を提供すること。

V.国際的援助および協力

財政援助その他の援助
31.委員会は、武力紛争の影響を受けた子どもを保護しおよび支援するための多国間および二国間の活動に対して相当の財政支援を行なっていることについて、締約国を賞賛する。委員会はまた、子どもを徴募しかつ武力紛争において使用した者の責任追及を促進するうえで重要な役割を果たしてきたシエラレオネ特別法廷に対する締約国の支援にも、積極的要素として留意するものである。
32.委員会は、締約国が、とくに防止措置を促進し、かつ選択議定書に反する行為の被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を促進することを通じ、武力紛争に関与した子どもの権利に対応するための多国間および二国間の活動に対する財政支援を継続しおよび強化するよう、勧告する。
武器輸出および軍事援助
33.委員会は、締約国が世界最大の武器輸出国であることに留意する。武器輸出管理法(22 U.S.C., sect. 2778)で民間の対外武器販売が規制されていることには留意しながらも、委員会は、子どもが徴募されまたは敵対行為で使用されている国への武器の販売が同法でとくに制限されていないことを、遺憾に思うものである。
34.委員会は、締約国に対し、子どもが徴募されもしくは敵対行為で使用されていることがわかっているまたはその可能性がある国を最終目的地(最終使用地)とする武器の販売について、法律に具体的な禁止規定を設けるよう勧告する。
35.委員会は、国またはその支援を受けた武装集団が子どもを徴募している場合には対外軍事融資(FMF)が提供されない可能性がある旨の、締約国から提供された情報に留意する。しかしながら委員会は、合衆国の国益にとって重要であると判断される場合、一定の状況下でこの制限が免除される可能性があることを遺憾に思うものである。委員会は、採択されれば、国の軍隊または準軍事集団が子ども兵士を徴募しおよび使用していることがわかっている国への軍事援助を制限することにつながる2007年子ども兵士責任追及法案に、積極的要素として留意する。
36.委員会は、子どもが徴募されもしくは敵対行為において使用されていることがわかっているまたはその可能性がある国が対外軍事援助の最終融資先である場合に、締約国が、免除を行なう余地なく当該融資を廃止するよう勧告する。子どもの徴募および敵対行為における子どもの使用を防止するための措置を強化するため、委員会は、締約国が2007年子ども兵士責任追及法案を採択するよう勧告するものである。

VI.フォローアップおよび普及

(a)フォローアップ
37.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を政府省庁の構成員、連邦議員および州当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
(b)普及
38.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を促進する目的で、締約国が提出した第1回報告書および委員会が採択した総括所見を公衆一般が広く入手できるようにすることを勧告する。

VII.次回報告書

39.第8条第2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、2010年1月23日を提出期限とする次回報告書に記載するよう要請する。


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最終更新:2011年08月20日 18:22