総括所見:イラク(第2~4回・2015年)


CRC/C/IRQ/CO/2-4(2015年3月3日)/第68会期
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2015年1月21日に開かれた第1958回および第1960会合(CRC/C/SR.1958 and 1960参照)においてイラクの第2回~第4回統合定期報告書(CRC/C/IRQ/2-4)を検討し、2015年1月30日に開かれた第1983回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、締約国における子どもの権利に関する理解の向上を可能にしてくれた、締約国の第2回~第4回統合定期報告書(CRC/C/IRQ/2-4)および事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/IRQ/Q/2.4/Add.1)の提出を歓迎する。委員会は、ハイレベルなかつ部門横断型の締約国代表団との間に持たれた建設的対話に評価の意を表するものである。

II.締約国によってとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は、以下の文書の批准を歓迎する。
  • (a) 子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書(2008年6月)。
  • (b) 武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書(2008年6月)。
  • (c) 障害のある人の権利に関する条約(2013年3月)。
  • (d) 拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰に関する条約(2011年7月)。
  • (e) 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(2010年11月)。
  • (f) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の、国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)(2010年4月)。
  • (g) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2009年2月)。
  • (h) 最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する国際労働機関(ILO)第182条約(1999年)(2001年7月)。
  • (i) 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する1980年10月25日のハーグ条約(2013年)。
4.委員会はまた、以下の憲法上および立法上の措置がとられたことにも、評価の意とともに留意する。
  • (a) 家族、母性および子ども時代の保護のための規定を含む2005年イラク憲法。
  • (b) イラク・クルディスタン地域における家族間暴力の防止に関する法律(法律第8号)(2011年)。
  • (c) 人身取引対策法(法律第28号)(2012年)。
5.委員会は、以下の制度上および政策上の措置を歓迎する。
  • (a) 国家開発計画(2013~2017年)。
  • (b) リプロダクティブヘルスおよび母子保健のための国家戦略(2013~2017年)。
  • (c) クルディスタン地域における質の高い教育へのアクセス促進戦略(2013~2018年)。
  • (d) イラクにおける非識字根絶のための国家戦略(2011~2015年)。
  • (e) 国家教育・高等教育戦略(2011~2020年)。
  • (f) 国家腐敗対策戦略(2010~2014年)。
  • (g) 貧困削減戦略(2010~2014年)。
  • (h) 委員会はまた、締約国が2010年2月に行なった、国際連合の諸特別手続に対する招請も歓迎する。

III.条約の実施を妨げる要因および困難

6.委員会は、締約国で継続中の武力紛争、政治的不安定状況および武装集団の存在、宗派的および民族的分断の強化ならびに宗教的過激主義の勃興がもたらすとりわけ深刻な影響に留意する。これは子どもの権利の深刻な侵害につながっており、かつ条約に掲げられた権利の実施にとっての重大な障壁であって、とくにいわゆるイラク・レバントのイスラム国(ISIL)に所属する犯罪集団が行なうテロ行為によって悪化している。委員会は、締約国に対し、国際人権法上の義務は継続していること、および、条約上の権利は常にすべての子どもに適用されることを想起するよう求めるものである。委員会はまた、締約国に対し、住民の保護について第一次的責任を負っているのは締約国であり、したがって、民間人に対する過度なおよび致死的な実力の使用を停止し、かつ子どもに対するさらなる暴力(殺害および傷害を含む)を防止するために即時的措置をとるべきであることも想起するよう求める。

IV.主要な懸念領域および勧告

A.実施に関する一般的措置(条約第4条、第42条および第44条第6項)

委員会の前回の勧告
7.委員会は、締約国に対し、1998年に行なわれた委員会の勧告(CRC/C/15/Add.94)のうち実施されていないものまたは十分に実施されていないものに対応するためにあらゆる必要な措置をとるよう促すとともに、とくに、締約国が以下の措置をとるべきである旨の勧告をあらためて繰り返す。
  • (a) 第14条第1項に付した留保を撤回の方向で見直す可能性について検討すること(パラ6)。
  • (b) 子ども福祉庁の予算配分額ならびに条約を実施するためのその権限および権威を増大させることにより、同庁を強化すること(パラ9)。
  • (c) 国および地域のレベルの双方で、子どもの権利に関与しているさまざまな政府機関間の調整を強化するとともに、子どもの権利の分野で活動している非政府組織(NGO)とのより緊密な協力を確保するためさらなる努力を行なうこと(パラ10)。
  • (d) 条約が対象とするすべての領域を編入することを目的として、データ収集システムを見直すこと。このようなシステムは、虐待または不当な取扱いの被害を受けた子ども、働いている子ども、少年司法の運営の対象となった子ども、女子、ひとり親家庭の子どもおよび婚外子、遺棄されかつ(または)施設措置された子どもならびに障害のある子どもを含む、被害を受けやすい状況に置かれた子どもをとくに重視しつつ、あらゆる子どもをその対象とするべきである(パラ12)。
  • (e) とくに条約第2条、第3条および第4条を考慮にいれて、子どもの経済的、社会的および文化的権利の保護を確保するための予算配分を優先するとともに、これとの関連で、都市部と農村部との間および諸県間の格差を解消するよう努めること(パラ13)。
立法
8.委員会は、双方向的対話の際に代表団から提供された、ジャファリ人事法案は廃案とされた旨の情報、および、同法案がふたたび上程されることはない旨の表明を歓迎する。
9.委員会はまた、多くの子ども関連法案、とくに子ども保護法案、クルディスタン自治地域で提案されている子ども保護法案、子ども議会法案および子ども福祉庁法案がまだ議論および検討の過程にあることにも、評価の意とともに留意する。
10.委員会は、締約国に対し、条約の規定との全面的両立性を確保しながらこれらの法案/法律の採択手続を速やかに進めるよう促す。
独立の監視
11.2008年法律第53号によりイラク人権高等委員会が設置され、かつ2010年の法律第4号によりクルディスタン地域独立人権委員会が設置されたことは歓迎しながらも、委員会は、これらの機関が独立性を欠いており、かつその資源が限られていることを懸念する。委員会はまた、子どもの権利を監視するための具体的機構を設置する計画がまだ実現されていないことも懸念するものである。
12.委員会は、子どもの権利の促進および保護における独立した人権機関の役割についての一般的意見2号(2002年)に照らして、締約国に対し、条約の実施を監視すること、および、自己の権利の侵害に関する子どもの苦情を子どもに配慮した迅速なやり方で受理し、調査しかつこれに対応し、かつ当該侵害に対する救済を提供することを目的とする独立機関を、イラク人権高等委員会内にまたは独立の機構(たとえば子どもオンブズパーソン)として、速やかに設置するよう促す。委員会はまた、締約国に対し、高等委員会およびこのような子どもの権利監視機関がパリ原則を遵守すること、および、いかなる独立の監視機構も、適正な資源を与えられ、かつ領域全体に配置されることを確保するようにも促すものである。
腐敗
13.委員会は、国家腐敗対策戦略(2010~2014年)は歓迎しながらも、締約国で腐敗が著しく蔓延しており、かつ説明責任を確保するための機構が設けられていないこと、および、その結果として子どもの権利に有害な影響が生じていることを懸念する。
14.腐敗の防止に関する国際連合条約にのっとり、委員会は、締約国に対し、腐敗を防止しかつ根絶することならびに腐敗行為を理由として国および地方の官吏を訴追することを目的として、確固たる措置をとるよう促す。
市民社会との協力
15.委員会は、市民社会組織および人権擁護者(子どもの権利に活動をとくに行なっている組織および個人ならびに暴力から避難する女性・女子を援助している組織および個人を含む)が、恒常的ないやがらせ、恣意的監視および令状なしの捜索の対象とされていること、ならびに、その多くが違法にかつ秘密裡に活動することを余儀なくされていることを懸念する。
16.委員会は、締約国に対し、人権擁護者が民主的社会の諸原則に一致する方法で安全に活動を遂行できることを確保するための措置を速やかにとるよう、促す。委員会はまた、締約国に対し、人権擁護者または市民社会組織の構成員に対する脅迫およびいやがらせとして報告されている事案が速やかにかつ独立の立場から調査されること、および、これらの人権侵害について責任を負う者がその責任を問われることを確保するようにも促すものである。

B.一般原則(条約第2条、第3条、第6条および第12条)

差別の禁止
17.委員会は、女子が、ジェンダーを理由とする根強いかつ極度の差別を人生のもっともはやい段階から子ども時代全体を通じて経験しており、かつ、このような差別により、家族間暴力、心理的および性的な搾取および虐待、早期婚、強制婚および一時的婚姻(ムタア)、ならびに、教育にほとんどアクセスできない状況にさらされていることを懸念する。
18.委員会は、締約国に対し、女子を差別するすべての法律(遺産の処理〔に関するもの〕を含む)をこれ以上遅滞することなく廃止するとともに、明確に定義された達成目標および適切な監視機構をともなう包括的な戦略を策定することにより、女子に対する否定的な態度、慣行および深く根づいたステレオタイプを解消するよう、促す。
19.委員会は、締約国に存在するさまざまな集団の子どもに対する根強い差別について懸念を覚える。このような子どもには、民族的および(または)宗教的マイノリティ集団に属する子ども(とくに身分証明書類および社会サービスへのアクセスに関して)、婚外子、複合的な権利侵害を受けている障害のある子ども、ならびに、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダーの子ども、これらの集団の者に養育されている子どもおよび社会の規範と一致しない振舞いをする子どもが含まれる。
20.委員会は、締約国が、あらゆる事由に基づく差別からの全面的保護を確保し、被害を受けやすい状況に置かれているすべての集団の子どもに対するあらゆる形態の差別に対処する包括的な戦略の採択および実施を進め、かつ、差別的な社会の態度と闘うよう勧告する。委員会はまた、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 民族的および宗教的マイノリティの子どもが社会に全面的に統合されることを確保するために積極的措置をとること。
  • (b) 障害のある子どもが社会に全面的に包摂され、かつすべての公共サービスに平等にアクセスできることを、法律によりかつ実際に確保すること。
  • (c) 性的指向およびジェンダーアイデンティティの平等およびこれらの事由に基づく差別の禁止に関する公衆の意識啓発を図ることにより、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダーの集団に属する子どもまたはこれらの集団の者に養育されている子どもならびに社会の規範と一致しない振舞いをする子どもがいかなる形態の差別も受けないことを確保すること。
子どもの最善の利益
21.委員会は、自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利を締約国が十分に法律に統合しておらず、かつ、公的職員を対象としてこの問題に関する研修が実施されていないことに、懸念とともに留意する。
22.自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利についての一般的意見14号(2013年)に照らし、委員会は、この権利がすべての立法上、行政上および司法上の手続および決定、ならびに、子どもに関連し、かつ子どもに影響を与えるすべての政策、プログラムおよびプロジェクトにおいて一貫して適用されることを確保するための努力を、締約国が強化するよう勧告する。
生命、生存および発達に対する権利
23.委員会は、いわゆるISILが子どもをあえて標的として残忍なやり方で殺害していること、および、とくに以下のことを嫌悪しかつ非難する。
  • (a) いわゆるISILによって、宗教的および民族的マイノリティに属する子どもが組織的に殺害されていること(男子の一斉処刑事件が複数起きていること、ならびに、子どもの頭部切断、はりつけおよび生き埋めの報告があることを含む)。
  • (b) 現在行なわれている戦闘(イラク治安部隊による空爆、砲撃および軍事作戦によるものを含む)ならびに地雷および爆発性戦争残存物によって、きわめて多数の子どもが殺害されまたは重傷を負っていること。
  • (c) いわゆるISILによって多数の子どもが誘拐されており、その多くが、親の殺害を目撃したことにより深刻なトラウマを負い、かつ身体的および性的暴行を受けていること。
24.委員会は、締約国に対し、子どもおよびその家族の安全および保護を確保するためにあらゆる必要な行動をとること、ならびに、子どもおよび家族が紛争の影響を受けている地域を離れ、かつ基礎的な人道援助にアクセスできるようにすることを強く促す。とくに、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 紛争関連の人権侵害および虐待(とくに戦争犯罪または人道に対する犯罪に相当するもの)の実行犯を裁判にかけること。
  • (b) いわゆるISILおよび他の武装集団に対して武力作戦を実行する際、区別の原則および均衡性の原則を尊重するとともに、民間人(とくに子ども)に敵対行為の影響が及ばないようにするためにあらゆる実行可能な警戒措置をとること。
  • (c) 子どもの保護のためおよび国際連合・監視および報告に関する国別タスクフォースとの情報共有のための正式な機構を確立すること。
  • (d) 国際刑事裁判所ローマ規程に加入するとともに、現在行なわれている紛争の始期からの同裁判所の裁判権の行使を受け入れる旨、第12条第3項に基づいて宣言することを考慮すること。
  • (e) いわゆるISILによって誘拐された子どもに対して適切な援助(全面的な社会的再統合ならびに全面的な身体的および心理的回復のための援助を含む)が提供されることを確保するための機構を確立すること。
  • (f) 送還、リハビリテーションおよび紛争後の再建において、子ども(とくに女子)の特別なニーズを考慮に入れること。
25.委員会は、女性および女子が引き続きいわゆる「名誉」の名のもとに殺害されもしくは負傷させられており、または社会的圧力を受けて自殺を図る事態になっている一方で、締約国が、いわゆる「名誉ある動機」を殺人のような犯罪に関する情状酌量の要素に位置づけている刑法(法律第111号(1969年)第409条も第128条、第130条および第131条もいまなお廃止していないことを、深く懸念する。委員会はまた、以下のことも懸念するものである。
  • (a) ジェンダーを理由とする差別的態度が社会のなかに根強く残っていることから、包囲された街の住民が、政府に対し、いわゆるISILによって女子および女性が収容され、強姦されかつ金銭と引き換えに性奴隷の状態に置かれている刑務所を爆撃するよう要請する事態が生じていること。
  • (b) 過激主義的武装集団および民兵が、いわゆる「名誉」の名のもとに、女性および女子を恣意的に断罪しかつ殺害していること。
  • (c) いわゆる「名誉」の名のもとに行なわれる犯罪の被害を受ける危険がある女子が保護にアクセスできないこと。
26.委員会は、締約国に対し、いわゆる「名誉」の名のもとに行なわれるジェンダーを理由とする犯罪に対して絶対的不寛容の方針を適用し、かつ、すべての事件について迅速かつ効果的な捜査が行なわれることを確保するよう促す。とくに、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 刑法(法律第111号(1969年)第409条、第128条、第130条および第131条、ならびに、いわゆる「名誉ある動機」を情状酌量の要素とすることを認めるものとして利用されまたは解釈される可能性がある他のいかなる法的規定も遅滞なく廃止するとともに、いかなる事情があってもいわゆる「名誉」の抗弁を援用できないこと、および、いわゆる「名誉」の名のもとに行なわれたジェンダーを理由とする暴力および犯罪(超法規的殺害を含む)の加害者に対し、その犯罪の重大性に相応する制裁が科されることを確保すること。
  • (b) いわゆる「名誉」の名におけるすべての女性嫌悪的態度を解消するため、市民社会および女性団体と連携しながら、一般公衆、メディア、宗教的指導者およびコミュニティの指導者を対象とする意識啓発のための努力を行なうこと。
  • (c) いわゆる「名誉」の名のもとに行なわれる犯罪の被害者となるおそれまたは社会もしくは家族の圧力のために自殺を図る危険性のある女性および女子を対象として、シェルターおよび保護制度を含む効果的保護を確保すること。
27.委員会は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルもしくはトランスジェンダーである子どもまたはそうであると疑われている子どもおよび社会の規範と一致しない振舞いをする子どもが、国の機関ではない民兵による迫害、拷問および殺害の対象とされており、かつこれに対する処罰が行われていない事案があることを深く懸念する。委員会はまた、警察および裁判所が、暴力の被害者の性的指向またはジェンダーアイデンティティを情状酌量の要因と考えることが常態化しているため、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダーである子どもが攻撃された事件の多くが、さらなる被害および差別に対する恐れのために通報されないままとなっていることも懸念するものである。
28.委員会は、締約国が、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルもしくはトランスジェンダーである子どもおよび社会の規範と一致しないいかなる種類の振舞いをする子どももあらゆる形態の攻撃から保護し、攻撃の加害者に全面的に責任をとらせ、かつ、被害者の性的アイデンティティまたはジェンダーアイデンティティがいかなる状況下でも酌量のための情状として認容されないことを確保するため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
子どもの意見の尊重
29.委員会は、子ども議会法案がまだ採択されていないことを懸念する。委員会はまた、自己に関連する事柄についての子どもの意見表明を明示的に可能にするいかなる法的規定も存在しないこと、および、子どもに関する決定(婚姻に関する決定を含む)が、ほとんどの場合、子どもに押しつけられていることも懸念するものである。
30.意見を聴かれる子どもの権利についての一般的意見12号(2009年)に照らし、委員会は、締約国が、意見を聴かれる子どもの権利を積極的に促進するとともに、ソーシャルワーカーおよび裁判所が子どもの意見の尊重の原則を遵守するようにするための法律の採択ならびにシステムおよび(または)手続の確立を図ることにより、家庭、学校およびコミュニティのなかで、かつ子どもをケアする施設ならびに行政上および司法上の手続において、この原則を編入し、促進しかつ実施するよう勧告する。

C.市民的権利および自由(第7~8条および第13~17条)

出生登録/名前および国籍/アイデンティティ
31.女性がその子どもに自己の国籍を承継させることを可能にした法律第26号(2006年)の採択は歓迎しながらも、委員会は、締約国の領域外で出生した子どもが母の国籍を取得するのは父が知れない場合または無国籍である場合のみであること、および、その場合の国籍の取得は内務大臣の裁量に服するとされていることを懸念する。母が国籍を承継させることは、婚姻がしかるべき形で登録されている場合にのみ可能である。そのため、婚外子または外国籍の者とイラク国籍の母との婚姻、戦闘員との強制婚もしくは非公式な婚姻のもとで生まれた子どもが無国籍となる事態が生じている。委員会はまた、以下のことも懸念するものである。
  • (a) 締約国の民事登録制度が1957年の国勢調査をもとにしているため、住民のさまざまな層(とくにドム人コミュニティ)が国籍証明書および多くの権利を剥奪される状況が生じていること。
  • (b) 1959年の人事法でイスラム教徒の女性と非イスラム教徒の男性との婚姻が禁じられている結果、通婚カップルの子どもが身分証明書類を受領できないおそれがあること。
  • (c) 1970年の法律第105号でバハイ教の信仰が禁じられている結果、バハイ教との子どもが登録されていないこと。
  • (d) フェイリ・クルド人住民の復帰プロセスが速やかに進行していないため、フェイリ・クルド人の子どもがしばしば無国籍となっていること。
  • (e) 12~40歳の「処女」が旅券の発給を受けるためには親または法定代理人の同意を得なければならないという要件が設けられていること。
32.委員会は、締約国に対し、子どもがいかなる制限もなく母の国籍を取得できることを確保する目的で法律第26号(2006年)第4条を改正するとともに、以下の措置をとるよう求める。
  • (a) 締約国に住んでいるすべての者を含む現在の国勢調査結果をもとに現行民事登録制度を刷新するための速やかな措置をとるとともに、排除されているすべての者(とくにドム人コミュニティの構成員)に対して暫定的な国籍証明書を提供すること。
  • (b) 登録されていない婚姻のもとで生まれた子どもに対して身分証明書類が発給されることを確保するとともに、カップルの信仰にかかわらず、すべての自発的婚姻が登録されるようにするために法改正を行なうこと。
  • (c) フェイリ・クルド人住民の復帰プロセスをいっそう速やかに進め、かつフェイリ・クルド人の子どもに身分証明書類を発給すること。
  • (d) 女子に対し、保護者の許可なく旅券の発給を受ける権利を認めること。
  • (e) 無国籍者の地位に関する1954年の条約および無国籍の削減に関する1961年の条約を批准すること。
33.委員会はさらに、教育および医療ケアのような基礎的サービスにアクセスする子どもの権利を登録の有無にかかわらず保障するよう勧告する。
思想、良心および宗教の自由
34.委員会は、宗教的帰属が身分証明書類に記載されていることを懸念する。このような状況は、宗教的マイノリティに属する子どもが直面する差別を悪化させるものである。さらに委員会は、人種差別撤廃委員会と軌を一にし(CERD/C/IRQ/CO/15-21、パラ13)、民族的・宗教的マイノリティ集団の子どもの親がイスラム教に改宗した場合、子どもが元の宗教に復帰することは禁じられている旨の、市民社会から受け取った情報について懸念を覚える。
35.委員会は、締約国が、すべての子どもについて宗教の自由に対する権利を全面的に尊重し、身分証明書類における宗教的帰属の記載を削除し、かつ、すべての子どもが宗教の変更前に正当に相談されることを確保するよう、勧告する。

D.子どもに対する暴力(条約第19条、第24条第3項、第28条第2項、第34条、第37条(a)および第39条)

拷問および他の残虐なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰
36.委員会は、警察が子どもに対して行なう拷問および他の残虐なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰の行為が報告されていることを懸念する。
37.あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利についての委員会の一般的意見13号(2011年)を参照しつつ、委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 子どもの拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰についてのあらゆる訴えを迅速なかつ独立したやり方で調査するとともに、加害者が処罰されないことを回避するため、このような行為に対して司法手続を通じた適切な対応がとられること、および、拷問の使用を通じて得られた証拠が認容されないことを確保すること。
  • (b) 自由を奪われた子どもがアクセスできる苦情申立て機構を設置するとともに、罪を犯した少年とともに働く要員がその役割および責任に関する適切な研修および告知を受けることを確保すること。
  • (c) 拷問および不当な取扱いの被害を受けた子どもに対して身体的および心理的回復の手段を提供し、その社会的再統合を確保し、かつこれらの子どもに対する補償を行なうこと。
体罰
38.委員会は、締約国で子どもが恒常的に体罰の対象とされていること、学校および代替的養護の現場において体罰が依然として合法とされていること、ならびに、拘禁施設および刑事施設では体罰が禁じられている一方で、法律に抵触した子どもを収容する他の施設(鑑別センター、思春期前の子どものための更生学校、青少年更生センターおよび少年更生センターを含む)では明示的に禁じられていないことを懸念する。委員会はまた、体罰が家庭において依然として合法とされていること、および、刑法(法律第111号(1969年)第41条によれば、夫が殴打によって妻を懲戒する法律上の権利を有していることにも、懸念とともに留意するものである。
39.体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利についての一般的意見8号(2006年)を参照しつつ、委員会は、締約国に対し、あらゆる場面における体罰を明示的に禁止するとともに、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 体罰を禁止する法律が効果的に実施されること、ならびに、子どもの不当な取扱いについて責任を負う者に対する法的手続が速やかに開始されることおよび組織的に実施されることを確保すること。
  • (b) 体罰に対する一般的態度を変革する目的で、この慣行の有害な影響(身体的および心理的影響の双方)に関する持続的な公衆教育、意識啓発および社会的動員のためのプログラムを、子ども、家族、コミュニティおよび宗教的指導者の関与を得ながら導入するとともに、積極的な、非暴力的なかつ参加型の子育ておよび規律を促進すること。
虐待およびネグレクト
40.委員会は、イラク・クルディスタン地域における家族間暴力の防止に関する法律(法律第8号)(2011年)は歓迎しながらも、女性および子どもを対象とする家族間暴力からの法的保護が不十分であること、ならびに、家族の恥になるという恐れ、家族またはコミュニティからの報復の危険性ならびに警察および治安部隊からのいやがらせおよび人権侵害のために暴力の通報が相当に過少となっていることを、深刻に懸念する。
41.委員会は、締約国に対し、家族間暴力に効果的に対処するための断固たる措置をとるとともに、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) イラク・クルディスタン地域における家族間暴力の防止に関する法律第8号の実施を確保するとともに、締約国の他の地域についても同様の法律を採択すること。
  • (b) 暴力に関する苦情申立てを抑制する文化的タブーを解消するとともに、暴力および虐待はいかなる文脈においても受け入れられないことについて一般公衆を啓発するための包括的戦略を採択すること。
  • (c) この問題に関する教材を開発し、教員に対してしかるべき研修を実施し、かつ、暴力および虐待が受け入れられないことについて子どもが幼少期から訓練されることを確保すること。
  • (d) 子どもおよび女性があらゆる形態の虐待およびネグレクトならびに警察による暴力およびいやがらせについて苦情を申し立てることのできる独立の機構を設置すること。
性的搾取および性的虐待
42.委員会は、子ども(とくに女子)の性的搾取および性的虐待が広く蔓延していることを懸念する。委員会はまた、以下のことも懸念するものである。
  • (a) 刑法(法律第111号(1969年)第427条で、強姦の加害者が虐待した女子と婚姻する場合に免責が認められていること。
  • (b) 被害を受けた子どもの全面的な心理的および心理的回復のための支援が行なわれていないこと。
  • (c) 性的搾取および性的虐待の被害を受けた子どもがスティグマを付与されていること。
43.委員会は、締約国に対し、以下のことを目的として迅速な法的措置をとるよう促す。
  • (a) 刑法(法律第111号(1969年)第427条を廃止すること。
  • (b) 子どもの性的搾取および性的虐待のあらゆる事件が徹底的に捜査されることならびに加害者が訴追されかつ処罰されることを確保すること。
  • (c) 子どもの性的虐待および性的搾取の事件が義務的に通報されることを確保するための機構、手続および指針を確立すること。
  • (d) 防止ならびに被害を受けた子どもの回復および社会的再統合のためのプログラムおよび政策の発展を確保すること。
  • (e) 被害を受けた子どもが直面するスティグマおよび差別と闘うこと。
性奴隷制
44.委員会は、いわゆるISILの出現以降、子ども、とくにISILによって捕らえられたマイノリティ集団に属する子どもの性的奴隷化が継続していることを嫌悪する。委員会は、ISILが、自ら設けた「市場」において、誘拐されてきた子どもおよび女性を値札を付けたのちに売っていること、および、ISILの仮設刑務所(モスル郊外の元バドゥーシュ刑務所など)に収容されている子どもの性的奴隷化が行なわれていることに、このうえない懸念とともに留意するものである。
45.委員会は、締約国に対し、いわゆるISILの支配下に置かれている子どもを救出し、かつ加害者を裁判にかけるためにあらゆる必要な措置をとるよう促す。委員会はまた、締約国に対し、奴隷状態または誘拐から解放されまたは救出された子どもに援助を提供することも促すものである。
有害慣行
46.委員会は、女性性器切除が2011年の法律第8号で犯罪とされているにもかかわらず、締約国、とくにクルディスタン自治地域においてこの慣行が蔓延しており、かつ、この慣行と闘うためにとられた措置が不十分であることを深く懸念する。
47.委員会は、有害慣行に関する女性差別撤廃委員会および子どもの権利委員会の合同一般的勧告31号/一般的意見18号を参照しつつ、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 通報の義務化等の手段によって、女性性器切除を犯罪とした規定を厳格に執行するとともに、女性性器切除を施術するすべての者が法律にしたがって訴追されかつ処罰されることを確保すること。
  • (b) 世帯、地方当局、宗教的指導者、医療従事者ならびに裁判官および検察官を対象とした、女性性器切除の慣行を助長する根底的な社会的規範、価値体系および態度を解消するための感受性強化プログラムを発展させること。
48.委員会は、女子の早期婚、一時的(ムタア)婚姻および強制婚が広く蔓延しており、かつ報告によれば2003年以降増加していることを深く懸念する。人事法(法律第188号)第9条で強制婚が禁じられていることには留意しながらも、委員会は、同条が適用されるのは婚姻がまだ「床入りにより完了」していない場合のみであることを懸念するものである。委員会はまた、以下のことも懸念する。
  • (a) 女子が父方のいとことの婚姻を強制されるアルネーワ(Al Nehwa)婚の慣行が行なわれていること。
  • (b) 被害者が申立てを行なわなければ裁判所が強制婚についての審理を行なわず、かつ、申立て後、被害者がいかなる保護も享受できない場合があること。
  • (c) 法律第188号(1959年)において女子および男子について定められた最低婚姻年齢(18歳)に法的例外が設けられており、女子の婚姻は15歳で認められていること、および、少年福祉法(法律第76号、1983年)第8条で、裁判官が、一定の事情があるときは15歳の女子の婚姻を許可できるとされていること。
  • (d) クルディスタンにおける最低婚姻年齢が16歳であり、かつ後見人の許可があるときはさらに低い年齢での婚姻も可能であること。
49.委員会は、有害慣行に関する女性差別撤廃委員会および子どもの権利委員会の合同一般的勧告31号/一般的意見18号(2014年)に照らして、締約国に対し、早期婚および強制婚の慣行を終わらせるために積極的措置をとるとともに、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 女子および男子ともに最低婚姻年齢を18歳と定めた規定が執行されること、16歳未満の子どもはいかなる状況下でも婚姻できないこと、および、16歳の段階で婚姻の許可を得られる事由が法律で厳格に定義され、かつ、子どもの全面的な、自由なかつ十分な情報に基づく同意を踏まえた、権限のある裁判所の許可に服することを確保すること。
  • (b) 世帯、地方当局、宗教的指導者裁判官および検察官を対象とした、早期婚および強制婚が女子の身体的および精神的健康およびウェルビーイングに及ぼす有害な影響に関する意識啓発キャンペーンおよび感受性強化プログラムを確立すること。
  • (c) 申立てを行なった強制婚被害者のための保護制度を確立すること。
  • (d) 一時的(ムタア)婚姻の被害者のための保護措置を創設すること。

E.家庭環境および代替的養護(第5条、第9~11条、第18条第1~2項、第20条、第21条、第25条および第27条第4項)

家庭環境
50.委員会は、女性および女子の尊厳に反しており、かつその子どもに悪影響を与える複婚および一方的離縁が締約国で依然として合法とされていることを懸念する。委員会は、以下のことをとりわけ懸念するものである。
  • (a) 女性および女子の務めおよび役割(とくに家庭におけるもの)についての否定的なジェンダーステレオタイプが根強く残っていること、および、夫を喪った女性および離婚した女性が苛酷な差別(公的書類の取得および政府による援助へのアクセスに関する差別を含む)に直面しており、その子どもにも影響が生じていること。
  • (b) 母親は子どもの「身体的」監護者であって法的監護者ではないと考えられており、かつ、女性に監護権が与えられるのは、まれな例外を除き、子どもが10歳に達するまでにすぎないこと。
51.委員会は、締約国に対し、女性に対する差別であり、したがってその子どもに悪影響を及ぼすすべての規定(複婚および一方的離縁を認めるものなど)が遅滞なく廃止されることを確保するよう促す。委員会はまた、締約国に対し、以下の措置をとるよう求めるものである。
  • (a) 条約第18条第1項にしたがい、母親および父親がその子どもに関する法的責任を平等に共有することを確保すること。
  • (b) 単身の女性(夫を喪った女性および離婚した女性を含む)に対するあらゆる形態の差別を解消するとともに、このような女性およびその子どもの保護を強化すること。委員会はさらに、締約国に対し、女性世帯主に十分な金銭的支援を提供し、かつ女性世帯主が保健ケアおよび社会保障にアクセスできることを確保するよう促す。
家庭環境を奪われた子ども
52.委員会は、避難民化した際に子どもが両親から強制的に分離され、または子どもを殺すという脅迫を受けて親がいわゆるISILのもとに子どもを残していくことを余儀なくされた事案が相当数にのぼることを著しく懸念する。委員会はまた、長年にわたる紛争の間に多数の子どもが家族を失ったこと、ならびに、これらの子どもに保護および代替的養護(とくに里親養育)を提供するための措置および戦略が存在しないことも懸念するものである。
53.委員会は、締約国が、緊急の課題として以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) いわゆるISILによって捕らえられている子どもを解放し、家族と再会させ、かつこれらの子どもに対してあらゆる必要な身体的および心理的保健ケアを提供するためにすべての必要な措置をとること。
  • (b) 代替的養護プログラム(とくに里親養育)を強化するとともに、代替的養護施設および関連の子ども保護機関の養護を受けている子どものリハビリテーションおよび社会的再統合を最大限可能なかぎり促進する目的で、これらの施設および機関に十分な人的資源、技術的資源および財源が配分されることを確保すること。
54.委員会は、刑法(法律第111号(1969年)第377条において婚姻外の性交渉が犯罪化されていることの影響について懸念を覚える。このために、そのような交渉の結果として生まれた赤ん坊が遺棄されまたは殺害されるおそれが生じるためである。委員会はまた、締約国でシングルマザーが社会的拒絶およびスティグマの対象とされていること、ならびに、このような社会的拒絶によってその子どもに深刻な影響が生じていることも、深く懸念するものである。
55.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 刑法第377条を廃止し、かつ婚外子の遺棄または殺害を防止すること。
  • (b) 非婚の母に対し、子どもを養育できるようにするために必要な支援を提供すること。
  • (c) 10代で妊娠した女子、思春期の母親およびその子どもの権利を保護するための政策を策定しかつ実施すること。
  • (d) 婚外妊娠に付与されるスティグマと闘い、かつこれを解消すること。
  • (e) 男子および男性の意識啓発に特段の注意を払いながら、責任のある親としてのあり方および性行動を促進すること。
母親とともに収監されている子ども
56.委員会は、多くの子どもが母親とともに刑務所で生活しているものの、女性を対象とするほとんどの刑務所には保育施設がないこと、ならびに、衛生看護および一般看護が不十分であるためにさまざまな疾病がこれらの子どもに影響を及ぼしていることを懸念する。委員会はまた、子どもが母親の処刑後も数週間刑務所に滞在する事例があることも懸念するものである。
57.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 可能なときは常に、妊婦および乳幼児のいる母親の施設収容に代わる措置を追求すること。
  • (b) 母親とともに収監されている子どものために十分な生活条件を確保すること。
  • (c) 子どもの最善の利益が、その親に関わる刑事手続において考慮されること、および、自ら養育している子どもがいる母親に対して死刑が執行されないことを確保すること。

F.障害、基礎保健および福祉(第6条、第18条第3項、第23条、第24条、第26条、第27条第1~3項および第33条)

障害のある子ども
58.委員会は、障害のある子どもの状況が現在行なわれている紛争によってとりわけ悪化させられていること、ならびに、障害のある子どもに対する社会的差別およびスティグマが存続していることを懸念する。とくに、委員会は以下のことを懸念するものである。
  • (a) 校舎が障害のある子どもにとって十分にアクセシブルなものになっていないこと、適切な学習教材が存在しないこと、特別な資格を有する教員が不足していること、および、障害のある子どものための十分な乳幼児期発達サービスが存在しないこと。
  • (b) 社会サービスおよび金銭的支援への、障害のある子どもによるアクセスが不十分であること。
59.障害のある子どもの権利についての一般的意見9号(2006年)に照らし、委員会は、締約国に対し、紛争の際に負傷した子どもにとくに焦点を当てながら障害に対する人権基盤アプローチをとるよう促すとともに、具体的には以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 実効的なインクルーシブ教育を確保し、かつ、その実施のためにあらゆる必要な人的資源、技術的資源および財源を配分すること。
  • (b) 障害のある子どもへの差別の解消に関する意識啓発プログラムを実施するとともに、そのような差別を禁じた法律の遵守を確保するための執行機構を強化すること。
  • (c) 障害のある子どもがあらゆる社会サービスに平等にアクセスできることを確保し、かつ、障害のある子どもを養育している家族に金銭的援助を提供すること。
健康および保健サービス
60.委員会は、2006年以降、予防接種の普及範囲および施設における分娩が相当に増加したことに評価の意とともに留意するものの、農村部ならびに中部および南部地域において、5歳未満児死亡率が高いことならびに慢性的栄養不良および(とくに未成年の母親に関わる)妊産婦死亡が広く蔓延していることを遺憾に思う。これには、子どもの国内避難民の間で感染症および非感染性疾患の出現が増加していること(小児麻痺および麻疹の発症リスクが高いことを含む)ならびに栄養不良率が高いことが含まれる。委員会はまた、武力紛争が保健ケアの利用可能性および質に破壊的影響を与えている一方で、締約国が保健ケア制度に充てている連邦予算の割合が低いことも懸念するものである。
61.委員会は、到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利についての一般的意見15号(2013年)に対して締約国の注意を喚起するとともに、締約国が、保健予算を増加させるためにあらゆる必要な措置をとり、かつ以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 緊急産科ケアにアクセスできるようにし、かつ、訓練を受けた者による自宅分娩ケアへのアクセスおよび訓練を受けた保健ケア提供者のいる母子保健クリニックへのアクセスを確保することにより、妊産婦の死亡を減少させること。避難民コミュニティ、農村部ならびに中部および南部地域にとくに焦点を当てることが必要とされる。
  • (b) 予防可能な疾病その他の疾病(とくに下痢性疾患、急性呼吸器感染症および栄養不良)を減少させるための介入策に対し、あらゆる必要な人的資源、技術的資源および財源を配分すること。
  • (c) 病院の設備を十分なものとするためにあらゆる必要な措置をとるとともに、国際連合児童基金(ユニセフ)および世界保健機関(WHO)の援助を求めること。
62.委員会は、多くの地域が毒性水準の高い鉛汚染、水銀汚染および劣化ウラン汚染の影響を受けており、そのため高い乳児死亡率ならびに子どものガン罹患率の上昇および先天性欠損症の増加が生じていることに、懸念とともに留意する。
63.委員会は、締約国が、あらゆるタイプの戦争残存物を除去し、かつさまざまなタイプの戦争残存物に関する情報を子どもおよび一般公衆の間で普及するためにあらゆる努力を行なうとともに、保護措置をとるよう勧告する。さらに、負傷したまたいは病気になった子どもに対して、あらゆる必要な保健ケアが提供されるべきである。
精神保健
64.委員会は、相当数の子どもがさまざまな程度の心的外傷後ストレス障害に苦しんでいる懸念する。
65.委員会は、締約国が、心的外傷後ストレス障害および継続中の紛争関連のストレスに苦しむ子どもを支援するためのプログラムの立ち上げおよび専門家の養成を進めるとともに、この点に関してユニセフおよびWHOの援助を求めることを検討するよう勧告する。
思春期の健康
66.委員会は、思春期の子どもがリプロダクティブヘルスサービス(避妊手段および安全な中絶サービスへのアクセスを含む)にアクセスできていないことに、懸念とともに留意する。
67.思春期の健康と発達に関する一般的意見4号(2003年)を参照しつつ、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 10代で妊娠した女子の最善の利益が保障されることを確保するために中絶に関する法律を見直すとともに、中絶に関する決定において、妊娠した子どもの意見が常に聴かれ、かつ正当に考慮されることを確保すること。
  • (b) 思春期の子どもを対象とする包括的なセクシュアル/リプロダクティブヘルス政策を採択するとともに、セクシュアル/リプロダクティブヘルス教育が、若年妊娠および性感染症の予防にとくに注意を払いながら、学校の必修カリキュラムの一部とされ、かつ思春期の女子および男子を対象として行なわれることを確保すること。
薬物および有害物質の濫用
68.委員会は、思春期の子どもの間で薬物濫用が増加していること、および、思春期の薬物使用者のニーズに対応する薬物予防サービスが利用可能とされていないことを懸念する。
69.委員会は、締約国が、公的な学校プログラムおよびメディアキャンペーンを通じ、子どもおよび青少年に対して有害物質の濫用(タバコおよびアルコール〔の使用〕を含むが、とくにハードドラッグ〔の使用〕ならびに接着剤および溶剤の吸引)の防止に関する正確かつ客観的な情報およびライフスキル教育を提供するとともに、子どもを有害な誤情報およびモデルから保護するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、子どもおよび若者を対象とした、アクセスしやすく、かつ匿名で利用できる薬物依存治療およびハームリダクション(危害軽減)のサービスを発展させることも勧告するものである。
生活水準
70.委員会は、貧困下で生活する市民の人数の削減および非識字率の半減をめざす、締約国の貧困削減戦略(2010~2014年)を歓迎する。しかしながら委員会は、貧困に苦しむ子どもおよび社会サービスにアクセスできない子どもが多く、かつ相当の地理的格差が存在することを懸念するものである。さらに、委員会は以下のことを深く遺憾に思う。
  • (a) 締約国全域でホームレスの子どもが多数存在していること。
  • (b) 締約国の多くの地域で、住居、安全な飲料水、十分な衛生設備またはゴミ収集サービスにアクセスできないこと。
  • (c) いわゆるISILによってマイノリティ集団の家族の住居、店舗その他の財産が没収されているために、多くの家族が完全な生計維持手段を奪われていること。
71.委員会は、締約国が、貧困削減戦略に子どもの権利を含めるよう勧告する。さらに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう求めるものである。
  • (a) もっとも被害を受けやすい状況に置かれた集団に特段の注意を払いながら、ホームレスの子どものニーズに対応するための包括的戦略を策定するとともに、貧困削減戦略の優先的受益者にこれらの子どもを含めること。
  • (b) 飲料水および環境衛生設備の提供、ならびに、食料へのアクセスならびに食料の入手可能性および負担可能性の保障に優先的に取り組むとともに、これらの問題に対処するための援助を、とくにユニセフおよびWHOに対して求めることを検討すること。
  • (c) いわゆるISILによって財産を奪われた家族に支援を提供し、かつその生存手段を確保すること。

G.教育、余暇および文化的活動(第28~31条)

教育(職業訓練および職業指導を含む)
72.委員会は、国家教育・高等教育戦略(2011~2020年)を歓迎する。しかしながら委員会は、学校が攻撃されてきたことおよび学齢の子どもが通学時に誘拐されてきたことの影響で、中等学校に就学すべき年齢の子どものうち現在学校に通っているのは半数にすぎないこと、ならびに、子どもの国内避難民および難民のうち学校にアクセスできていない者がきわめて多いことに、懸念とともに留意するものである。委員会はまた、以下のことも懸念する。
  • (a) 爆撃および破壊の対象とされ、または避難民コミュニティに占拠されてきた校舎が荒廃したままの状態であること。
  • (b) 教材が質量ともに不十分であり、かつ学校で清潔な飲料水および十分な衛生設備にアクセスできないこと。
  • (c) 教員が著しく不安定な状況に置かれており、その多くが暗殺もしくは誘拐の対象とされ、避難のために国を離れ、またはいわゆるISILの脅威のもとに働くことを余儀なくされてきたこと。
  • (d) 女子による学校へのアクセスが否定的な家父長制的慣習および規範によって阻害されていることから、非識字である女子が相当数にのぼっていること。
  • (e) 教育に対する予算配分が不十分であること。
73.教育の目的に関する一般的意見1号(2001年)に照らし、委員会は、締約国が、ノンフォーマル教育プログラム等も通じ、かつ紛争の影響を受けた地域における校舎および学校設備の再建ならびに水、衛生設備および電気の供給の確保を優先させる等の手段により、武力紛争の影響を受けた子どもを教育制度に再統合するためにあらゆる必要な措置をとるとともに、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 実現可能なときは、国内避難民を、その安全を確保しつつ学校以外の建物に異動させること。
  • (b) 通学中の子どもならびに教育設備および教職員を保護するためにあらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 仮設学校を設置し、かつ市民がこれらの学校で臨時職員として働けるようにする教員養成プログラムを設けることを検討すること。
  • (d) 貧困下で暮らしている家族への金銭的支援を増加させるとともに、子ども(とくに女子)を通学させることの重要性に関する意識を親の間で浸透させるためのキャンペーンを実施すること。
  • (e) パートナーに対して教育のための人道資金の増額を求めるとともに、図書ならびに十分な質を有する適切な教育用資料および学習教材を学校に十分に備えつけること。

H.特別な保護措置(第22条、第30条、第32条、第33条、第35条、第36条、第37条(b)~(d)および第38~40条)

子どもの国内避難民および難民
74.委員会は、難民および国内避難民となった家族および子ども(とくに、いかなる人道援助からも切り離されたままである家族および子どもならびに山間部で飢餓に苦しんでいる家族および子ども)の不安定な状況および劣悪な生活環境について深刻な懸念を覚える。委員会は、子どもが非国家的武装集団によって徴募されていること、ならびに、国内避難民および難民となった家族が、しばしば安全な飲料水および衛生設備、汚水処理設備、保健サービス、暖房、毛布または冬用の衣料にアクセスできないまま、過密な居留地において、絶えることのない脅威のもとで生活していることを、とりわけ懸念するものである。委員会はまた、以下のことも懸念する。
  • (a) 移住避難省が避難民家族を対象として実施している定住補助金の支給、ならびに、治療および予防サービスの提供の利益を享受できている子どもの国内避難民が少数しかおらず、かつ、身分証明書類(子どもの国内避難民のほとんどはこれを所持していない)を提示しなければ配給食糧、教育、政府の手当および金銭的援助にアクセスできないこと。
  • (b) 女子の難民および国内避難民が、家族間暴力、強制婚、一時的(ムタア)婚および強制婚ならびに「性的搾取」にとりわけさらされていること。
  • (c) 子どもの難民および国内避難民のほとんどが教育にアクセスできておらず、一方で児童労働が増加していること。
  • (d) NGOに対し、避難民へのシェルターの提供が認められていないこと。
75.委員会は、締約国に対し、子どもの国内避難民および難民の権利およびウェルビーイングを保障するためにあらゆる必要な措置をとるとともに、とくに以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 国内避難民のために配分される資源を相当に増加させるとともに、子どもが清潔な水、十分な衛生設備(女子および女性のための尊厳保持用品を含む)、食料ならびにシェルター(暖房システム、毛布および冬服へのアクセスを含む)ならびに保健ケアおよび予防接種に十分にアクセスできることを確保するため、子どもを明確な対象として位置づけたプログラムを実施すること。
  • (b) 優先的課題として、国内避難民である子どもおよび家族を国の社会扶助制度に統合するとともに、とくに、とりわけ食料および教育へのアクセスに関わって身分証明書類の有無にかかわりなくサービスにアクセスできるようにするための登録手続を簡略化することにより、すべての公的サービスおよびプログラムがこれらの子どもおよび家族にとってアクセス可能でありかつ利用可能であることを確保すること。
  • (c) 子どもの国内避難民のために仮設就学設備を設け、かつ、これらの子どもを可能なかぎり早期に普通学校に再統合すること。
  • (d) NGOの活動に対する不必要な制限(とくにシェルターの提供にかんするもの)を直ちに解除し、国内避難民に対するNGOのアクセスを簡略化するためにあらゆる実行可能な措置をとり、かつ、パートナーに対し、空中投下による人道援助を増加させるよう求めること。
  • (e) 難民キャンプの治安を強化し、子どもを徴募、暴力および性的搾取から保護するためにあらゆる必要な措置をとり、かつ、女子および女性がサービスに直接アクセスできることを確保することによってその保護を増進させること。
  • (f) アクセスしやすい苦情申立て機構を確立し、人権侵害事案を全面的に捜査し、かつ加害者を訴追すること。
  • (g) 難民の地位に関する1951年の条約に加入すること。
マイノリティ集団または先住民族集団に属する子ども
76.委員会は、マイノリティ集団(とくにトルクメン人、シャバク人、キリスト教徒、ヤズィーディー教徒、サービア-マンダ教徒、カカイ教徒、フェイリ・クルド人、アラブ人シーア派、アッシリア人、バハイ教徒、アラウィット派)に属する子どもおよび家族の憂慮すべき状況に対し、このうえない懸念を表明する。これらの子どもおよび家族は、いわゆるISILによって組織的に殺害され、拷問を受け、強姦され、イスラム教への改宗を強要され、かつ人道援助から切断されているが、これは、ISILの構成員による、これらのマイノリティコミュニティを抑圧し、永久に浄化しもしくは追放し、または場合によっては破壊しようとする試みであるとされる。
77.委員会は、締約国に対し、即時的措置をとってマイノリティ集団に属する子どもにあらゆる必要な保護を提供するとともに、法的な適正手続に関する国際基準を尊重しながら、これらの子どもを迫害する者が訴追されかつ処罰されることを確保するよう促す。さらに委員会は、締約国に対し、可能なときは常に、マイノリティコミュニティが元の土地および住居に全面的に復帰できるようにすることに対して決意を示し、かつ、財産を失った者に補償を行なうよう促すものである。
78.委員会は、マイノリティ集団に属する子どもが締約国でその他の形態の差別にも直面してきていること、および、マイノリティ集団に対する攻撃が、主として国の法執行当局が加害者の責任を問うことについて消極的であること、官憲が信頼されていないことおよび報復への恐れが存在することを理由としてしばしば処罰されないまま実行されていることに、懸念を表明する。委員会はまた、以下のことも懸念するものである。
  • (a) マイノリティ集団に属する子どもが、サービス(とくに身分証明書類、保健ケア、教育、安全な飲料水、電気および十分な住居)へのアクセスを妨げる立法上および実際上の障壁に直面し続けていること。
  • (b) 黒人コミュニティおよびロマの村々の子どもが初等教育施設を有しておらず、かつ、トルクメン人学校が教育省の援助を受けていないこと。
  • (c) 子どもに対し、母語で教育を受けることが憲法によって保障されているにもかかわらず、マイノリティ集団の子どもについてはこの権利がしばしば尊重されていないこと。委員会はさらに、マイノリティの歴史または文化がカリキュラムでほとんど取り上げられていないこと、および、マイノリティ集団に属する子どもが教員によって疎外される事案が生じていることを遺憾に思う。
  • (d) マイノリティへのヘイトスピーチが恒常的に発生しており、かつヘイトスピーチからの法的保護が存在しないこと、ならびに、マイノリティ集団の子どもが日常的な社会的疎外および差別(ベールをかぶっていないことを理由とするマイノリティ集団の女子へのいやがらせを含む)に苦しんでいること。
79.委員会は、締約国が、マイノリティ集団の子どもの平等な取扱いを確保し、かつこれらの子どもに対するいかなる形態の差別も全面的に禁止するために法改正を行なうよう勧告する。委員会はまた、締約国が以下の措置をとることも勧告するものである。
  • (a) マイノリティ集団が攻撃から全面的に保護されること、および、官憲がマイノリティに対する犯罪を幇助したすべての事件が徹底的な捜査および訴追の対象とされることを確保すること。
  • (b) さまざまな民族の子どもの行政上、政治上、文化上および教育上の権利を保障した憲法第125条の実施法を制定するとともに、この憲法上の保障に矛盾するすべての法律を廃止すること。
  • (c) すべての子どもがその母語で教育を受けられることを確保するための監視制度を設けること。
  • (d) マイノリティに属する子どもに関連する差別およびステレオタイプと闘うための意識啓発キャンペーンを確立し、かつ、異なる文化、信仰および生活スタイルに対する敬意および寛容を促進すること。
経済的搾取(児童労働を含む)
80.委員会は、ILO第182号条約に一致する形で、締約国において最悪の形態の児童労働が禁じられていることに留意する。しかしながら委員会は、この禁止規定の実施が弱くかつ不十分であることを遺憾に思うとともに、報告によれば、3~16歳の相当数の子どもが児童労働に従事しており、その多くが危険な条件下で、かつ暴力および性的虐待の被害を受けやすい状態で働いているとされることを深く懸念するものである。委員会はまた、以下のことも遺憾に思う。
  • (a) 配偶者、父親、母親、兄または姉が経営しまたは監督する家内企業で雇用されている15歳以上の子どもには労働法の規定が適用されないこと。
  • (b) 雇用および職業におけるあらゆる形態のセクシュアルハラスメントからの全面的かつ十分な保護が存在しないこと。
81.委員会は、締約国に対し、子どもの労働(インフォーマル経済および家内事業におけるものを含む)が年齢、労働時間、労働条件、教育および健康に関する交際基準に全面的に一致する形で行なわれることを確保し、かつ、あらゆる形態の性的、身体的および心理的いやがらせから子どもが全面的に保護されることを確保するための法律を制定するよう、促す。委員会はまた、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) とくに児童労働撤廃国際計画およびILOの援助を求めながら、非識字であり、かつ(または)児童労働に従事してきた子どもを普通教育に再統合するためのプログラムを設けること。
  • (b) 労働監察(インフォーマル部門におけるものを含む)を確立することによって労働法の実施を強化するとともに、児童労働に関する法律に違反したいかなる者も責任を問われることを確保すること。
  • (c) 貧困根絶の努力を強化することにより、経済的搾取の根本的原因に対処すること。
路上の状況にある子ども
82.委員会は、多数の子ども(多くの子どもの国内避難民を含む)が路上で生活しかつ(または)働いており、そこでさまざまな形態の犯罪(性暴力および性的虐待を含む)、薬物および犯罪集団による利用にさらされていることを非常に懸念する。
83.委員会は、締約国が、路上の状況にある子どもを支援し、かつ十分な栄養、衣服、住居および教育機会(職業訓練およびライフスキル訓練を含む)にアクセスできることを確保するための国家的戦略を策定するよう勧告する。さらに委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 路上の状況にある子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を目的とするプログラムを促進しかつ実施するとともに、可能なときは常に家族との再統合のための便宜を図ること。
  • (b) 路上の状況にある子どもが薬物依存治療にアクセスできることを確保するとともに、路上の状況にある子どもを性的搾取および性的虐待から保護することにとくに焦点を当てること。
  • (c) 路上の状況にある子どもとともに活動しているNGOおよびこれらの子どもたち自身と連携するとともに、とくにユニセフの技術的援助を求めること。
売買、取引および誘拐
84.委員会は、国内避難および宗派的暴力が人身取引の相当の増加にもつながっており、多くの子どもが、とくに性的搾取および家事奴隷としての使用を目的として(ただし強制労働または強制的役務、奴隷化または同様の慣行および隷属化を目的としても)、国内においても、イラン・イスラム共和国、ヨルダン、クウェート、レバノン、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦およびイエメンにおいても、人身取引の対象とされていることを深く懸念する。委員会はまた、孤児院の子どもが職員による強制売春目的の人身取引の対象とされているという報告についても特段の懸念を覚えるものである。
85.委員会は、締約国に対し、性的その他の搾取を目的とする子どもの人身売買と闘うとともに、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 加害者が組織的に訴追されかつ処罰されること、および、人身取引の被害者である子どもがけっして犯罪者として扱われないことを確保すること。
  • (b) 被害を受けた子どもの身体的および精神的回復ならびに社会的再統合のための適切な政策およびプログラムを実施すること。
  • (c) 子どもおよび家族が国内および国外双方の人身取引の危険性について理解し、かつ保護措置について理解するようにするための意識啓発活動を実施するとともに、被害者および証人に対して人身取引事件の通報を奨励すること。
  • (d) 子どもの売買および取引の根本的原因に対処する目的で、国際協力を継続しかつ強化すること。
少年司法の運営
86.拘禁に代わる措置について定めた締約国の少年福祉法(1983年法律第76号)は評価しながらも、委員会は、これらの選択肢が実際には非常にまれにしか用いられていないことを遺憾に思う。委員会はまた、拘禁(とくに長期間の未決拘禁)の対象とされる子どもの数が増えていること、および、これらの子どもがとりわけ劣悪な環境に置かれていること(過密な状態にあること、身体的および性的虐待にさらされることならびに医療サービスへのアクセスが不十分であることを含む)も著しく懸念するものである。委員会は、以下のことをとりわけ懸念する。
  • (a) 少年福祉法では子どもに対する終身刑および死刑が認められていないにもかかわらず、死刑を言い渡された女子が、18歳に達するまでカッラーダ少年拘禁施設に収容され、その後、死刑囚監房に移送されるという報告があること。
  • (b) 刑事責任年齢が9歳と低く定められており、かつ少年法案における引き上げも11歳までに留まっていること。
  • (c) 出生登録が行なわれていないことおよび子どもの年齢の決定に困難があることにより、犯行時18歳であった者に対して死刑が言い渡される場合があること。
  • (d) 拘禁後、子どもが社会に再統合することを支援するための十分な更生プログラムまたは更生施設が存在しないこと。
87.少年司法における子どもの権利についての一般的意見10号(2007年)に照らし、委員会は、締約国に対し、少年司法制度を条約および他の関連の基準に全面的に一致させるよう促す。とくに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促すものである。
  • (a) すべての子どもを死刑囚監房から直ちに解放するとともに、18歳未満の者が行なった犯罪について死刑または終身刑を科すことを明示的に禁止した規定が、この点に関する明確な訓令を発することにより効果的に実施されることを確保すること。
  • (b) 死刑囚監房に収容されておりまたは終身刑に服しているすべての受刑者の記録を速やかに再審査し、かつ、処罰対象である犯罪を行なったときに当該受刑者が18歳未満であった場合にはその死刑または終身刑が無効とされることを確保するとともに、犯罪時の子どもの年齢を確定できないときは18歳未満であったと推定すること。
  • (c) 子どもの拘禁の合法性について決定するため、子どもの事件が逮捕後24時間以内に裁判所に提出されることを確保すること。
  • (d) ダイバージョン、保護観察、調停、カウンセリングまたは地域奉仕のような拘禁に代わる措置を促進するとともに、拘禁が最後の手段としてかつ可能なもっとも短い期間で用いられること、および、拘禁がその取消しを目的として定期的に再審査されることを確保すること。
  • (e) 刑事責任に関する最低年齢を国際的に受け入れられる水準まで引き上げること。
  • (f) 少年の身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための施設およびプログラムを発展させること。

I.通報手続に関する選択議定書の批准

88.委員会は、締約国が、子どもの権利の充足をさらに強化する目的で、通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書を批准するよう勧告する。

J.国際人権文書の批准

89.委員会は、締約国が、子どもの権利の充足をさらに強化する目的で、締約国がまだ当事国となっていない中核的人権文書、とくにすべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約、ならびに、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約、市民的および政治的権利に関する国際規約、女性に対するあらゆる差別の撤廃に関する条約、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約および障害のある人の権利に関する条約の諸選択議定書を批准するよう勧告する。

K.地域機関および国際機関との協力

90.委員会は、国際協力の枠組みのなかでさまざまなプログラムおよびプロジェクト(国際連合の諸機関および諸計画との技術的援助および協力を含む)が実施されていることに留意する。
91.委員会は、締約国が、条約、その両選択議定書および他の人権文書の実施のための独自の資源および制度的体制を強化するよう同時に努めつつ、国際協力を維持しかつ増加させるための措置を引き続きとるよう、勧告する。

V.実施および報告

A.フォローアップおよび普及

92.委員会は、締約国が、この総括所見に掲げられた勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、第2~4回統合定期報告書、締約国の文書回答およびこの総括所見を同国の言語で広く入手できるようにすることも勧告するものである。

B.次回報告書

93.委員会は、締約国に対し、第5回・第6回統合定期報告書を2020年7月14日までに提出し、かつ、この総括所見のフォローアップに関する情報を当該報告書に記載するよう慫慂する。報告書は、2010年10月1日に採択された委員会の条約別調和化報告ガイドライン(CRC/C/58/Rev.2 and Corr.1)にしたがうべきであり、かつ21,200語を超えるべきではない(総会決議68/268、パラ16参照)。定められた語数制限を超えた報告書が提出された場合、締約国は、前掲ガイドラインにしたがって報告書を短縮するよう求められることになる。締約国が報告書を見直しかつ再提出する立場にないときは、条約機関による審査のための報告書の翻訳は保障できない。
94.委員会はまた、締約国に対し、2006年6月の第5回人権条約機関委員会間会合で承認された統一報告ガイドライン(HRI/GEN/2/Rev.6, chap. I)に掲げられた共通コアドキュメントについての要件にしたがい、最新のコアドキュメントを提出することも慫慂する。総会が決議68/268のパラ16で定めた共通コアドキュメントの語数制限は42,400語である。


  • 更新履歴:ページ作成(2017年5月18日)。
最終更新:2017年05月18日 21:41