総括所見:ベルギー(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.38(1995年6月20日)/第9会期
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年5月31日および6月1日に開かれた第222回、第223回および第224回会合(CRC/C/SR.222-224参照)においてベルギーの第1回報告書(CRC/C/11/Add.4)を検討し、以下の総括所見を採択した [注]。
[注] 1995年6月9日に開かれた第233回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国のきわめて包括的な報告書に対して評価の意を表するとともに、報告書の作成においてベルギー政府が開かれたかつ自己批判的なアプローチをとったことを歓迎する。委員会はまた、締約国に対し、事前質問事項(CRC/C.9/WP.4参照)に対する文書回答の提出および討議の際の追加情報の提供についても評価の意を表したい。
3.ハイレベルな代表団が出席してくれたことにより、委員会は、連邦および諸言語共同体レベルで条約の実施に直接責任を負う人々との率直かつ建設的な対話に携わることができた。

B.積極的な側面

4.委員会は、批准の際に付した留保の再検討について代表団が開かれた態度をとり、かつ、その撤回の検討に対して前向きな姿勢を見せたことを歓迎する。
5.委員会は、1992年の条約発効以来、子どもの権利を促進しかつ保護するためにベルギー政府がとってきた措置を歓迎する。これとの関係で、委員会はとくに、条約との全面的な一致を確保するために包括的な立法上の枠組みが採択されたことのほか、児童買春および児童ポルノの事件に関する国の裁判権を拡大して、「セックスツーリズム」の罪に問われたいかなる者も訴追することを国に認める法律が最近採択されたこと、民法第371条の改正により「親子間の相互の尊重」が規定されるようになる予定であること、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約の批准のための措置がとられたこと、条約第12条の精神にのっとり、養子縁組についての最低同意年齢を引き下げるための民法改正の意図が表明されたこと、ならびに、諸言語共同体によって子どもの権利の促進および保護のための機関および機構が設置されたことを歓迎するものである。委員会はまた、児童虐待およびネグレクトの防止のための意識啓発キャンペーンが開始されたことにも評価の意を表する。
6.委員会は、条約が自動執行的であること、および、その規定が裁判所において援用可能であり、かつ実際にいくつかの事件において援用されてきたことを歓迎する。委員会はまた、ベルギーが、法律の抵触の場合には国際人権基準が国内法に優越するという原則を適用していることにも、満足感とともに留意するものである。
7.委員会は、現在の景気後退の時期にあって、もっとも不利な立場に置かれた住民層、とくに子どもの社会福祉のための予算資源が締約国において削減されないことを確保する目的で公的機関が注意を払っていることに、満足感とともに留意する。

C.主要な懸念事項

8.委員会は、締約国が、条約の実施を調整するための全国的な常設機構の設置を検討するよう提案したいと考えるとともに、子どもの権利に関するデータ(とくに、とりわけ被害を受けやすい状況に置かれた集団に属する子どもについてのデータ)を連邦レベルで収集するための効果的かつ包括的なシステムを確立する必要があることに留意する。
9.委員会は、子どもの庇護希望者(保護者のいない子どもを含む)に関する法律および政策の適用について懸念を覚える。委員会は、難民申請を棄却されたものの18歳までは締約国に在留することのできる保護者のいない未成年者が、アイデンティティを剥奪され、かつ保健ケアおよび教育を含む権利の全面的享受を否定される可能性があることを、とりわけ懸念するものである。このような状況は、委員会の見解では、条約第2条および第3条との両立性について懸念を生ぜしめる。
10.条約第2条の規定に関して、委員会は、不利な立場に置かれた集団に属する子どもがより養護措置の対象とされやすいように思えることを懸念する。これとの関連で、委員会は、子どもの養育における家族の重要性を想起するとともに、家族からの子どもの分離の際には子どもの最善の利益が第一次的に考慮されなければならないことを強調するものである。
11.委員会は、青年保護法第38条で管轄権放棄が可能とされていることにより、16~18歳の若者が成人として裁判の対象とされ、したがって死刑または終身刑を科される可能性もあることについて懸念を表明する。委員会はまた、同法第53条の規定により、子どもを15日間刑務所に収容し、かつ隔離拘禁の対象にすることができることも懸念するものである。

D.提案および勧告

12.委員会は、締約国に対し、条約の批准の際に行なわれた解釈宣言を、その撤回の検討を目的として再検討することを考慮するよう奨励したい。
13.委員会は、子どもの権利条約が連邦および言語共同体双方のレベルで全面的に尊重されかつ実施されることを確保するため、締約国が、子どもの保護のための政策を調整し、評価し、監視し、かつフォローアップする常設機構の設置を構想するよう提案したい。これとの関連で、また子どもの権利を促進しかつ保護するための締約国の継続的取り組みの一環として、委員会は、締約国で子どもの権利の尊重の監視に携わる非政府組織と協力しながら、連邦政府および言語共同体政府との定期的かつより緊密な協力を促進するための方法および手段が確立されるべきことを提案する。
14.委員会は、締約国における子どもの状況を包括的に評価し、かつ条約の実施における進展および困難の包括的および学際的評価を確保するため、ベルギーが、連邦レベルで常設のデータ収集機構を創設することを構想するよう勧告する。
15.委員会は、条約との全面的一致を確保する目的で、とくに1965年4月の少年保護法第38条および第53条に関して、条約の規定と国内法を調和させるための取り組みがさらに追求されるべきであるとの見解に立つ。委員会は、締約国に対し、平時か戦時かを問わず死刑が廃止されることを確保するための措置を引き続きとるよう奨励したい。委員会はさらに、締約国に対し、家庭における体罰が禁止されることを確保するための法改正の検討を奨励する。
16.委員会はまた、条約第12条に照らし、とくに家庭生活、学校、地方レベルおよび司法制度での子どもの生活に影響を与える意思決定プロセス(子どもが証人として手続に参加する状況を含む)において、子どもによる意見表明およびその意見の正当な重視を奨励する手段をさらに検討することも奨励したい。
17.委員会は、締約国に対し、条約の原則および規定を子どもにも大人にも同様に広く知らせるための継続的かつ組織的なアプローチをさらに発展させるよう奨励したい。加えて、委員会は、条約の原則および目的がベルギーにおいて話されている言葉で広く知られようにし、かつ主要な難民および移民集団の言語に翻訳することを勧告する。国連人権教育の10年を宣言した総会決議49/184の採択に鑑み、委員会は、締約国に対し、この機会を活用して、子どもの権利条約についての教育を学校カリキュラムに編入することを促進するよう奨励するものである。委員会は、学校において用いられる教授法に、条約の精神および哲学ならびに条約第29条に定められた教育の目的が反映されることが重要であるとの見解に立つ。
18.教員、ソーシャルワーカー、ヘルスワーカー、出入国管理官、法執行官、裁判官ならびにケアのための施設および拘禁施設の職員を含むさまざまな専門職集団の研修プログラムに、条約の規定および原則についての教育を編入することが検討されるべきである。
19.委員会は、締約国に対し、難民および移住労働者の家族再統合を目的とした申請が積極的、人道的かつ迅速なやり方で扱われることを確保するよう奨励したい。
20.委員会は、ベルギー政府に対し、すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約への署名およびその批准を検討するよう奨励したい。
21.最後に、委員会は、ベルギーの第1回報告書、委員会との会合の議事要録および同報告書に関する委員会の総括所見を刊行することに対してベルギー政府が前向きな姿勢を見せていることを評価するとともに、これらの文書がベルギーで話されている言語で可能なかぎり広く配布されるよう勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2017年3月31日)。
最終更新:2017年03月31日 09:25