子どもの権利委員会・一般的討議勧告:HIV/AIDSが存在する世界で暮らす子ども


(第19会期、1998年)
原文:英語(PDF)
日本語訳:平野裕二

243.討議グループの勧告およびその後さまざまな問題について行なわれた全体討議に基づき、以下の勧告が委員会によってまとめられた。
  • (a) 各国、国際連合システムの諸プログラムおよび諸機関ならびにNGOは、HIV/AIDSに対する子どもの権利中心アプローチをとるよう奨励されるべきである。各国は、HIV/AIDSに関する国家的政策およびプログラムに子どもの権利を編入するとともに、子どもの権利の監視および調整のための国家的機構に、国家的なHIV/AIDSプログラム実施体制を含めるよう求められる。
  • (b) 各国は、HIV/AIDSと人権に関する国際指針を採用しかつ普及するとともに、国レベルにおける当該指針の実施を確保するべきである。国際連合システムの諸プログラムおよび機関ならびにNGOは、当該指針の普及および実施に貢献するよう求められる。
  • (c) HIV/AIDSに関する戦略、プログラムおよび政策の立案および実施に全面的かつ主体的に参加する子どもの権利が全面的に認められるべきである。子どもが参加でき、かつ自分たち自身の取組みに対して支援を受けられるような、支援的かつ力を発揮できるような環境を提供することが求められる。とくに、すでに実証されているピアエデュケーション戦略の有効性を認識し、かつ、このような戦略がHIV/AIDSの汎流行の影響の緩和に貢献しうることを考慮するべきである。HIV/AIDS政策の中心的目標は、自分自身を守れるように子どものエンパワーメントを図るところに置くことが求められる。
  • (d) 子どもが有する基本的権利としての情報へのアクセス権が、HIV/AIDS予防戦略の中心的要素として位置づけられるべきである。各国は、HIV/AIDS関連の情報(任意の検査を含む)にアクセスする子どもの権利を保障するために現行法を見直し、または新法を制定するよう求められる。
  • (e) 子どもを対象とした広報キャンペーンは、対象者集団の多様性を考慮に入れたうえで、しかるべき形で組み立てることが求められる。HIV/AIDSに関する情報は、社会的、文化的および経済的文脈に適合したものとされるべきであり、かつ、年齢にふさわしい媒体および普及経路を通じて提供されるべきである。対象集団の選択にあたっては、差別を経験している子どもまたは特別な保護を必要とする子どもの特別なニーズに注意を払うことが求められる。広報戦略は、態度の変革につながる有効性の観点から評価されるべきである。子どもの権利条約およびHIV/AIDS問題に関する情報(ライフスキルを教えることも含む)が学校カリキュラムに編入されるべきであり、一方、学校制度を通じて接触することのできない子どもに対してこのような情報を普及するためのさまざまな戦略を立案することが求められる。
  • (f) 各国ならびに国際連合システムの諸プログラムおよび諸機関が収集するHIV/AIDS関連のデータは、条約上の子どもの定義(18歳未満の者)を反映していることが求められる。HIV/AIDSに関するデータは、年齢およびジェンダーによって細分化されるべきであり、かつ困難な状況下で暮らしている子どもおよび特別な保護を必要とする子どもの状況を反映しているべきである。このような情報を、さまざまな集団の子どものニーズに対応することを目的としたプログラムおよび政策の立案にあたって参考とすることが求められる。
  • (g) 模範的実践に関する情報の収集および普及が、とくに肯定的成果をもたらしているHIV/AIDSへのコミュニティ基盤型アプローチに関して、いっそう進められるべきである。
  • (h) 母子感染ならびにとくに母乳育児のリスクおよび代替的手段について、いっそうの調査研究が実施されるべきである。
  • (i) HIV/AIDSに関する意識啓発を目的とした情報においては、その影響を受けている人々へのスティグマの強化につながりうる、HIV/AIDSの劇的な描き方をしないようにすることが求められる。
  • (j) 各国は、子どもの権利条約第2条を全面的に実施すること、とくにHIVに現に感染していることまたは感染しているとみなされることを理由とする差別を明示的に禁止し、かつ義務的検査を禁止することを目的として、現行法の見直しまたは新法の制定を進めるべきである。
  • (k) 女子が、ジェンダーを理由とする差別のためにHIV/AIDSとの関連でどのようにいっそうリスクの高い状況に置かれているかに対して、緊急の注意が向けられるべきである。サービス、情報およびHIV/AIDS関連プログラムへの参加へのアクセスについては女子がとくに取り組みの対象とされるべきであり、他方、特定のコミュニティを対象とする戦略を立案する際には、それぞれの状況で支配的なジェンダーに基づく役割について注意深く検討することが求められる。各国はまた、子どもの相続権および土地保有権を子どものジェンダーにかかわりなく保障する目的で、現行法の見直しまたは新法の制定を進めるべきである。
  • (l) HIV/AIDSへの対処を目的とする予防およびケアのための戦略においては、施設(社会福祉施設か拘禁施設かは問わない)で暮らしている子ども、路上で生活しまたは働いている子ども、性的その他の態様の搾取の被害を受けている子ども、性的その他の形態の虐待およびネグレクトの被害を受けている子ども、武力紛争に関与させられている子ども等をを含む、特別な保護を必要とする子どもに焦点が当てられるべきである。各国は、とくに、性的搾取および性的虐待から子どもを保護することならびに被害者のリハビリテーションおよび加害者の訴追を確保することを目的として、現行法の見直しまたは新法の制定を進めるよう求められる。同性愛の男子および女子は、HIV/AIDSとの関連ではとくに被害を受けやすい集団のひとつである一方で深刻な差別に直面することも多いことから、性的指向を理由とする差別に対しても特段の注意が向けられるべきである。
  • (m) HIV/AIDSに関するケアの定義は広くかつ包摂的に定められるべきであり、医学的治療のみならず、心理的配慮および社会的再統合の機会ならびに保護および支援(法的性質のものを含む)の提供も網羅したものでるべきである。
  • (n) 若者にやさしい保健サービスの提供を妨げる要因を特定し、かつ取り除くことが求められる。各国は、保健カウンセリング、ケアおよび福祉給付へのアクセスに関する最低年齢を規制する目的で、現行法の見直しまたは新法の制定を進めるべきである。思春期の子どものリプロダクティブヘルスに関する包括的政策は、情報およびサービス(性感染症または10代の妊娠の予防を目的とするものを含む)にアクセスする子どもの権利を基礎として立案することが求められる。
  • (o) 各国は、HIV/AIDSに関わるプライバシーおよび秘密保持についての子どもの権利(メディアが、HIV/AIDSに関する情報の普及に貢献しつつ、これらの権利を尊重するようにする必要性を含む)を具体的に認める目的で、現行法の見直しまたは新法の制定を進めるべきである。
  • (p) 各国、国際連合システムの諸プログラムおよび諸機関ならびにNGOは、人権に取り組む組織、子ども中心の組織およびAIDSに焦点を当てた組織が結集してHIV/AIDSに対応する方策をともに検討し、かつ子どもの権利委員会への報告において協働することを可能にする、新たなパートナーシップの可能性を模索するべきである。


  • 更新履歴:ページ作成(2017年2月17日)。
最終更新:2017年02月17日 03:10