少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)前編

国連総会決議40/33(1985年11月29日)
原文英語(日本語訳・平野裕二)

構成
  • 第1部 総則(規則1~9):基本的視点/規則の適用範囲および用語の定義/規則の適用範囲の拡大/刑事責任年齢/少年司法の目的/裁量の範囲/少年の権利/プライバシーの保護/既存の権利の確保
  • 第2部 捜査および訴追(規則10~13):最初の接触/ダイバージョン/警察内部の専門化/審判のための身柄拘束
  • 第3部 審判および処分(規則14~22):審判権者/弁護士、親および保護者/社会調査報告/審判および処分の指導原理/さまざまな処分の手段/施設措置の可能なかぎり最小限の使用/不必要な遅滞の回避/記録/専門化および訓練の必要性(第3部以下、北京規則(後編)
  • 第4部 施設外処遇(規則23~25):処分の効果的実施/必要な援助の提供/ボランティアその他のコミュニティ・サービスの動員
  • 第5部 施設内処遇(規則26~29):施設内処遇の目的/国際連合が採択した被拘禁者処遇最低基準規則の適用/条件付釈放の頻繁かつ早期の利用/中間施設による処分体制
  • 第6部 調査研究、計画、政策立案および評価(規則30):計画、政策立案および評価の基盤としての調査研究

第1部 総則

規則1 基本的視点

1.1 加盟国は、各国の一般的利益にしたがい、少年およびその家族の福祉の促進に努めなければならない。
1.2 加盟国は、少年がコミュニティのなかで有意義な生活を送れるような条件を発展させるよう努力しなければならない。少年がそのような有意義な生活を送ることは、逸脱行動にもっとも走りやすくなるこの時期に、できるかぎり犯罪や非行と無縁な人格の発達および教育の過程を促進することになるはずである。
1.3 法律にもとづく介入の必要性を減らすために少年の福祉を促進し、かつ法律に抵触した少年に効果的、公正かつ人道的に対応することを目的として、家庭、ボランティアその他のコミュニティ・グループならびに学校およびその他のコミュニティ機関を含む可能な資源を全面的に活用した積極的な措置をとることに、充分な注意が向けられなければならない。
1.4 少年司法は、すべての少年にとっての社会正義という包括的な枠組みのもとで、各国の国としての発展過程の不可欠な一部と見なされなければならない。このことは、同時に、青少年の保護および社会の平和的秩序の維持にも資することとなる。
1.5 本規則は、各加盟国を覆っている経済的、社会的および文化的条件の文脈のなかで実施されなければならない。
1.6 少年司法サービスは、サービスに携わる者の能力(その手法、アプローチおよび態度も含む)を向上させかつ維持することを目的とした、体系的な発展および調整の対象とされなければならない。
〈注釈〉
 以上の広範な基本的視点は、包括的な社会政策一般に言及するとともに、少年の福祉を最大限可能な範囲で促進することを狙いとしている。このことは、少年司法制度による介入の必要性を最低限に留め、ひいてはいずれかの介入を引き起こす可能性がある弊害を少なくすることにもつながるであろう。
 非行が発生する前にそのようなケアの措置をとることが、本規則を適用する必要性を未然に防ぐための基本的な政策要件である。
 規則1.1から規則1.3は、とくに少年の非行と犯罪を防止するうえで少年を対象とした建設的な社会政策が果たす役割の重要性を強調している。規則1.4は、少年司法を、少年にとっての社会正義の不可欠な一部として定義したものである。規則1.6は、少年一般を対象とした進歩的な社会政策の発展に遅れをとることなく、かつ職員の業務のあり方を一貫して向上させていかなければならないことを念頭に置きながら、少年司法を常に改善していくことの必要性に触れている。
 規則1.5は、加盟国に存在する現在の条件を考慮にいれようとしたものである。このような条件により、特定の規則を実施する方法が他の国でとられている方法とは異ならざるを得ない場合も生ずるであろうからである。

規則2 規則の適用範囲および用語の定義

2.1 以下の最低基準規則は、たとえば人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的その他の意見、国民的または社会的出身、財産、出生その他の地位などに関わるいかなる種類の区別もなく、罪を犯した少年に公正に適用されなければならない。
2.2 本規則の適用上、加盟国によって以下の定義が、各国の法制度および法概念と両立する方法で用いられなければならない。
  • (a) 「少年」とは、各国の法制度のもとで犯罪に対して成人とは異なる方法で扱われる子どもまたは青少年を指す。
  • (b) 「(犯)罪」とは、各国の法制度のもとで法律によって処罰されるいずれかの行動(作為または不作為)を指す。
  • (c) 「罪を犯した少年」とは、犯罪を行なったとして申し立てられ、またはその旨を認定された子どもまたは青少年を指す。
2.3 各国の司法管轄圏において、罪を犯した少年にとくに適用される一連の法律、規則および規定を定め、かつ、少年司法の運営の機能を委ねる制度および機関を設置する努力が行なわれなければならない。後者の制度および機関の目的は以下のとおりとする。
  • (a) 罪を犯した少年の基本的権利を保護しながら、その多様なニーズを満たすこと。
  • (b) 社会のニーズを満たすこと。
  • (c) 以下の規則を徹底的にかつ公正に実施すること。
〈注釈〉
 最低基準規則は、さまざまな法制度において適用できるようにしつつ、同時に、少年がいかなる形で定義されていようとも、かつ罪を犯した少年に対応するいかなる制度のもとでも通用する、罪を犯した少年の取扱いについての若干の最低基準を定めることができるように、配慮しながら策定されたものである。本規則は常に、公正に、かついかなる種類の区別もなく適用されなければならない。
 したがって、規則2.1は、本規則が常に公正に、かついかなる種類の区別もなく適用されることの重要性を強調している。この規則は、子どもの権利宣言第2条の構成にならったものである。
 規則2.2は、本規則の主たる適用対象である「罪を犯した少年」(ただし規則3および4も参照)の構成要素としての「少年」および「(犯)罪」の定義を定めている。年齢制限は各国の法制度に依拠するものであるし、その旨が明示されていることに注意しなければならない。このようにして、加盟国の経済的、社会的、政治的、文化的および法的制度が全面的に尊重されているのである。これにより、「少年」として定義される年齢層の幅は、7歳から18歳またはそれ以上に及ぶ広範なものとなる。このような多様性は、国によって異なる法制度にかんがみれば不可避と思われるものであり、本最低基準規則の影響を減殺するものではない。
 規則2.3は、本最低基準規則を法的にも実務的にも最適な形で実施するためには特別な国内法が必要であることを指摘したものである。

規則3 規則の適用範囲の拡大

3.1 本規則の関連の規定は、罪を犯した少年のみならず、成人が行なった場合には処罰されない特定の行動のために手続の対象とされる少年に対しても適用されなければならない。
3.2 本規則に掲げられた諸原則を、福祉手続またはケア手続で対応されるすべての少年に対しても拡大して適用するよう、努力が行なわれなければならない。
3.3 本規則に掲げられた諸原則を、罪を犯した若年成人にも拡大して適用するよう努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
 規則3は、少年司法の運営に関する最低基準規則が与える保護を、以下のものも対象とするよう拡大して適用しようとするものである。
  • (a) 各国のさまざまな法制度で規定されているいわゆる「地位犯罪」。このような法制度のもとでは、犯罪と見なされる行動の幅が成人の場合よりも少年の場合に広く定められている(たとえば怠学、学校や家庭における反抗、公共の場所での酩酊等)(規則3.1)。
  • (b) 少年を対象とした福祉手続およびケア手続(規則3.2)。
  • (c) 罪を犯した若年成人に対応する手続。もちろん、これは各国で定められた年齢制限次第である(規則3.3)。
 以上の3分野を対象とするよう本規則の適用を拡大することは正当と思われる。規則3.1は以上の分野における最低限の保障について定めたものである。規則3.2は、法律に抵触したすべての少年に対していっそう公正、公平かつ人道的な司法を保障する方向に向けた、望ましい一歩であると考えられる。

規則4 刑事責任年齢

4.1 少年の刑事責任年齢という概念を認めている法制度においては、情緒的、精神的および知的成熟に関する事実を念頭に置き、当該年齢の始期があまりにも低い年齢に定められてはならない。
〈注釈〉
 刑事責任に関する最低年齢は歴史および文化によって大きく異なる。現代のアプローチは、刑事責任の道徳的および心理的構成要素にしたがって子どもが行動できるかどうか考慮しようとするものである。すなわち、子ども個人の弁別力および理解力に照らし、本質的に反社会的な行動について子どもの責任を問えるかどうかが考慮される。刑事責任年齢があまりにも低く定められ、または年齢制限の下限がまったく定められないとすれば、責任という概念は無意味なものとなろう。一般的に、非行または犯罪行動に対する責任という概念とその他の社会的権利および責任(たとえば婚姻上の地位、民事上の成人年齢等)とのあいだには密接な関係がある。
 したがって、国際的に適用される合理的な年齢制限の下限について合意する努力が行なわれなければならない。

規則5 少年司法の目的

5.1 少年司法制度においては、少年の福祉が重視され、かつ、罪を犯した少年に対するいかなる対応も、罪を犯した者および犯罪の双方の状況に常に比例することが確保されなければならない。
〈注釈〉
 規則5は、少年司法のもっとも重要な目的のうち二つのものに言及している。第一の目的は、少年の福祉を促進することである。これは、罪を犯した少年が家庭裁判所または行政機関によって対応される法制度における主たる焦点であるが、少年の福祉は、刑事裁判所モデルにしたがう法制度においても重視されなければならない。そうすることにより、単に懲罰のみを目的とした制裁を回避することに資することができる(規則14も参照)。
 第二の目的は「比例原則」である。この原則は懲罰的な制裁を抑止する手段として広く知られており、犯罪の重大性に応じた正当な応報という形で表されることがもっとも多い。ただし、罪を犯した青少年に対する対応は、犯罪の重大性のみならず個人的状況も考慮にいれて行なわれるべきである。罪を犯した者の個別状況(たとえば社会的地位、家庭の状況、犯罪によって引き起こされた弊害、または個人的状況に影響を及ぼすその他の要因)によって、それに比例した対応が行なわれているかどうか判断されなければならない(たとえば、罪を犯した者が被害者に償いをしようと努めていること、または健全かつ有益な生活を送るようにしようとやる気を見せていることを考慮することによって)。
 同様に、罪を犯した青少年の福祉を確保することを目的とした対応が必要な限度を超え、そのために青少年個人の基本的権利を侵害する場合もある。これはいくつかの少年司法制度で見られてきたことである。ここでも、罪を犯した者および犯罪の双方の状況(被害者も含む)に比例した対応が保障されなければならない。
 つまるところ、規則5は、少年非行および少年犯罪のいかなる事案においても、公正なもの以上でも以下でもない対応を求めているのである。以上の二つの問題がこの規則で一体とされたことにより、両方の点における発展を刺激することにつながるかもしれない。すなわち、新しい革新的な対応は望ましいものであるが、少年に対する公式な社会統制の網が不当に拡大することを警戒することも同じように望ましいのである。

規則6 裁量の範囲

6.1 少年の特別なニーズが多種多様であることおよび多様な手段が利用可能であることにかんがみ、手続のあらゆる局面において、かつ捜査、訴追、審判および処分のフォローアップを含む少年司法の運営の手続のあらゆる段階において、適切な範囲の裁量が認められなければならない。
6.2 しかしながら、そのような裁量の行使にあたっては、あらゆる局面および段階において充分な説明責任を確保するための努力が行なわれなければならない。
6.3 裁量を行使する者は、賢明にかつその職務および権限にしたがって裁量を行使するための特別な資格を有し、またはそのための訓練を受けていなければならない。
〈注釈〉
 規則6.1、6.2および6.3は、効果的、公正かつ人道的な少年司法の運営に見られるいくつかの重要な特徴を組み合わせている。すなわち、決定を行なう者が個々の事案でもっともふさわしいと思われる措置をとれるよう、手続のあらゆる重要な段階で裁量権を行使することが認められる必要があること、および、裁量権の濫用を抑止し、かつ罪を犯した青少年の権利を保障するためにチェック・アンド・バランスの体制を整える必要があることである。説明責任と専門性が、広範な裁量を抑止するのに適した手段として位置づけられている。したがって、ここでは、専門家としての資格と専門的訓練が、罪を犯した少年の問題に関する裁量が賢明に行使されるようにするための有益な手段として重視されているのである(規則1.6および2.2も参照)。この流れで、裁量の行使に関する具体的な指針を策定することと、決定の吟味および説明責任の履行を可能にするために再審査、不服申立てその他の制度を整えることが重視される。このような機構についてここでは具体的に定められていない。司法制度のすべての違いを網羅することはできそうにない国際的な最低基準規則に、そのような機構を編入することは容易でないためである。

規則7 少年の権利

7.1 無罪の推定、被疑事実を告知される権利、黙秘権、弁護人選任権、親または保護者の立会いを受ける権利、証人と相対し反対尋問を行なう権利および上級機関に上訴する権利のような基本的な手続的保障は、手続のあらゆる段階で保障されなければならない。
〈注釈〉
 規則7.1は、公正な裁判のために必要不可欠な要素であり、既存の人権文書で国際的に認められているいくつかの重要な点を強調している(規則14も参照)。たとえば無罪の推定は、世界人権宣言第11条や市民的および政治的権利に関する国際規約第14条2項でも認められているところである。
 本規則の規則14以下は、少年事件の手続で重要な問題について具体的に規定している。規則7.1は、もっとも基本的な手続的保障を一般的に確認したものである。

規則8 プライバシーの保護

8.1 プライバシーに対する少年の権利は、不当な公表またはラベリングの過程によって少年に及ぼされる弊害を回避するため、あらゆる段階で尊重されなければならない。
8.2 原則として、罪を犯した少年の特定につながりうるいかなる情報も公表されてはならない。
〈注釈〉
 規則8は、プライバシーに対する少年の権利を保護することの重要性を強調している。青少年はとりわけスティグマ(烙印)を付与されやすい。ラベリングの過程に関する犯罪学上の調査研究により、青少年が「非行少年」または「犯罪者」として恒久的に位置づけられることは(さまざまな)有害な影響をもたらすという証拠が提示されてきた。
 規則8は、事件についての情報(たとえば、罪を申し立てられたまたは有罪判決を受けた青少年の氏名)がマスメディアで公表されることにより生ずる可能性のある悪影響から少年を保護することの重要性も強調している。個人の利益は、少なくとも原則として保護および支持されなければならない(規則8の一般的内容は規則21でさらに具体的に規定されている)。

規則9 既存の権利の確保

9.1 本規則のいかなる規定も、被拘禁者の処遇に関する国際連合最低基準規則、および、国際的に認められたその他の人権文書および人権基準であって青少年のケアおよび保護に関わるものの適用を排除するものとして解釈してはならない。
〈注釈〉
 規則9は、すでに存在するまたは作成中である関連の人権文書や人権基準に掲げられた諸原則にしたがって本規則を解釈および実施するにあたり、いかなる誤解も生じないようにすることを目的としたものである。このような文書や基準としては、世界人権宣言、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約と市民的および政治的権利に関する国際規約、ならびに子どもの権利宣言と子どもの権利条約草案などがある。本規則を適用するにあたり、いっそう幅広い適用の規定を掲げている場合があるこのような国際文書の実施を妨げてはならないことが理解されなければならない(規則27も参照)。

第2部 捜査および訴追

規則10 最初の接触

10.1 少年が逮捕された場合、当該逮捕についてただちに親または保護者への通知が行なわれなければならない。ただちに通知することが不可能な場合、可能なもっとも短い期間のうちに親または保護者への通知を行なうものとする。
10.2 裁判官またはその他の権限ある職員もしくは機関は、釈放の問題を遅滞なく考慮しなければならない。
10.3 法執行機関と罪を犯した少年との接触は、事案の状況を正当に考慮しながら、少年の法的地位を尊重し、少年の福祉を促進し、かつ少年に対する弊害を回避するような方法で行なわれなければならない。
〈注釈〉
 規則10.1は、基本的には、被拘禁者処遇最低基準規則92項に掲げられた内容と同様である。
 釈放の問題(規則10.2)は、裁判官またはその他の権限ある職員によって遅滞なく考慮されなければならない。後者はもっとも広義の人または機関を指すものであって、逮捕された者の釈放権限を有するコミュニティ委員会または警察機関を含む(市民的および政治的権利に関する国際規約第9条3項も参照)。
 規則10.3は、少年犯罪の場合における手続と警察官その他の法執行官の行動の、いくつかの基本的な側面を扱っている。「弊害を回避する」というのはもちろん柔軟な文言であって、生ずる可能性のある相互作用の多くの特徴(たとえばきつい言葉の使用、身体的暴力または周囲の環境への露出)を網羅するものである。少年司法手続に関わることそのものが少年にとっては「有害」となりうる。したがって、「弊害を回避する」という用語は、追加的なまたは不当な弊害を意味するのみならず、そもそも少年に及ぶ可能性がある弊害を最低限に留めなければならないものとして、広く解釈されなければならない。このことは、法執行機関との最初の接触のさいにはとりわけ重要である。そのような接触は、国や社会に対する少年の態度に根本的な影響を及ぼすかもしれない。さらに、その後の介入が成功するかどうかは大部分、そのような最初の接触如何である。このような状況では共感と、思いやりのある厳格さが重要となる。

規則11 ダイバージョン

11.1 適当な場合には常に、以下の規則14.1で言及されている権限ある機関の正式な審判によることなく、罪を犯した少年に対応することが考慮されなければならない。
11.2 警察、検察または少年事件に対応するその他の機関に対し、正式な審理によることなく自己の裁量で事件を処理する権限が与えられなければならない。ただし、そのさい、その目的のために各国の法制度で規定された基準にしたがい、かつ本規則に掲げられた諸原則にしたがうものとする。
11.3 適当なコミュニティ・サービスその他のサービスへの付託をともなういかなるダイバージョンも、少年またはその親もしくは保護者の同意を要件とする。ただし、事件を付託する決定は、申請にもとづき、権限ある機関による再審査の対象とされなければならない。
11.4 ダイバージョンによる少年事件の処理を促進するため、一時的な監督および指導、被害回復ならびに被害者への補償のようなコミュニティ・プログラムを整備する努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
 ダイバージョンとは、刑事司法手続からの分離と、多くの場合にコミュニティ支援サービスへの移送をともなうものであって、多くの法制度で公式か非公式かを問わず一般的に実践されているものである。このような慣行は、少年司法の運営におけるその後の手続の悪影響(たとえば、有罪判決および刑の言渡しによるスティグマ)を抑止する機能を果たす。多くの場合、介入しないことが最善の対応となるはずである。したがって、最初の段階でダイバージョンを行ない、かつ代替的(社会)サービスへの付託も行なわないことが最適な対応となる場合もある。犯罪が重大な性質のものではない場合や、家庭、学校その他の非公式な社会統制機関が適切かつ建設的な形ですでに対応しており、または対応する可能性が高い場合は、なおさらである。
 規則11.2で述べられているように、ダイバージョンは、警察、検察、または裁判所、審判所、委員会または審議会のようなその他の機関が決定を行なういずれの時点でも活用することができる。ある機関が単独で、または複数もしくはすべての機関がダイバージョンを行なえるが、そのさい、各国の制度上の規則および方針にしたがい、かつ本規則にのっとって行なわなければならない。かならずしも軽微な事件に限る必要もないので、ダイバージョンは重要な手段である。
 規則11.3は、ダイバージョンの措置を勧告するさい、罪を犯した青少年(または親もしくは保護者)の同意を確保しなければならないという、重要な要件を強調している(そのような同意を得ずにコミュニティ・サービスへのダイバージョンを行なうことは強制労働廃止条約に抵触することになろう)。しかしながら、この同意に対する異議申立てを不可能なままにしておいてはならない。少年が単なる自暴自棄から同意することもあるためである。規則は、ダイバージョン手続のあらゆる段階で強制および威嚇の可能性を最低限に留めるための配慮を強調している。少年は、ダイバージョン・プログラムに同意するよう圧力を感じさせられてはならないし(たとえば裁判所への出頭を回避するため)、実際に圧力をかけられてもならない。そのため、罪を犯した青少年に対する処分が適切かどうか、「申請にもとづき、権限ある機関」により客観的評価を行なうための体制を整備するよう提唱されている(「権限ある機関」は規則14にいう機関と同じであるとは限らない)。
 規則11.4は、コミュニティ基盤型のダイバージョンという形で、少年司法手続に代わる実行可能な手段を整備するよう勧告している。被害者に対する被害回復を行なうプログラムや、一時的な監督および指導を通じて今後少年が法律に抵触しないことを目指すプログラムが、とりわけ推奨されているところである。個々の事件の実体を考慮することにより、もっとも重大な犯罪が行なわれた場合でもダイバージョンが適切な措置とされることもあろう(たとえば初犯の場合、仲間の圧力のもとで行なわれた行為の場合等)。

規則12 警察内部の専門化

12.1 少年に頻繁にもしくはもっぱら対応する警察官または主として少年犯罪の防止に携わる警察官は、その職務を最善の形で遂行できるようにするため、特別な指示および訓練を受けていなければならない。大都市では、この目的のために特別な警察部局が設置されるべきである。
〈注釈〉
 規則12は、少年司法の運営に携わるすべての法執行官が専門的訓練を受けることの必要性に注意を促している。警察は少年司法制度における最初の接触段階であるため、警察が専門的識見に裏付けられた適切な方法で行動することがもっとも重要である。
 都市化と犯罪との関係が複雑であるのは明らかであるが、少年犯罪の増加と大都市の発展、とくに急速かつ無計画な発展との関連性は指摘されてきた。したがって、本文書に掲げられた具体的原則(たとえば規則1.6)を実施するためのみならず、より一般的に、少年犯罪の防止および統制ならびに罪を犯した少年の取扱いを改善するためにも、特別な警察部局は必要不可欠となろう。

規則13 審判のための身柄拘束

13.1 審判のための身柄拘束は、最後の手段として、かつ可能なもっとも短い期間でのみ用いられなければならない。
13.2 可能な場合には常に、審判のための身柄拘束に代えて、緊密な監督、集中的なケア、または家庭または教育的な施設もしくはホームへの措置のような代替的手段がとられなければならない。
13.3 審判のために身柄を拘束されている少年は、被拘禁者の処遇に関する国際連合最低基準規則に掲げられたすべての権利および保障を享受する資格を有する。
13.4 審判のために身柄を拘束されている少年は、成人から分離されなければならず、かつ、施設を別にして、または成人も収容している施設においては区画を別にして収容されなければならない。
13.5 身柄拘束中の少年は、その年齢、性別および性格にかんがみて必要と思われるケア、保護およびすべての必要な援助(社会的、教育的、職業的、心理的、医学的および身体的な)を与えられなければならない。
〈注釈〉
 審判のための身柄拘束中に少年が「犯罪の汚染」を受ける危険性を過小評価してはならない。したがって、代替的手段の必要性を強調することは重要である。規則13.1は、そうすることにより、少年の福祉のためにそのような身柄拘束を避けることを目的とした、新しい革新的な手段を立案するよう奨励している。
 審判のために身柄を拘束されている少年は、被拘禁者処遇最低基準規則や市民的および政治的権利に関する国際規約(とくに第9条ならびに第10条2項(b)および3項)に掲げられたすべての権利および保障を享受する資格を有する。
 規則13.4は、各国が、罪を犯した成人の悪影響を防止するために、同規則に挙げられている措置と少なくとも同じぐらい効果的なその他の措置をとることは妨げていない。
 拘禁されている青少年の幅広い特定のニーズで対応が必要とされているもの(たとえば、女子か男子か、薬物嗜癖者か、アルコール依存者か、精神病の少年か、たとえば逮捕のトラウマを負っている青少年か等)に注意を促すため、必要となるかもしれないさまざまな形態の援助が列挙された。
 拘禁されている青少年は多様な身体的および心理的特徴を有していることから、審判のための身柄拘束中に一部の青少年を別に収容するための分類措置をとってもよい。そうすることにより、被害を回避することに寄与し、より適切な援助を与えることができる。
 犯罪防止および犯罪者処遇に関する第六回国際連合会議は、少年司法基準に関する決議四において、本規則がとくに反映すべき基本的原則として、審判前の身柄拘束は最後の手段としてのみ用いられなければならないこと、いかなる未成年者も成人被拘禁者の悪影響を受けやすい施設に収容されてはならないこと、および、その発達段階に特有のニーズが常に考慮にいれられなければならないことを挙げていた。

北京規則(後編)に続く)


  • 更新履歴:ページ作成(2012年2月26日)。
最終更新:2012年02月26日 07:55