スカーレット・オラトリオ

「しかし大変なことに巻き込まれてしまいましたね、蟹沢さん」
「まったく……やんなっちゃうぜー」

黒で染められた草原に二人の女の子がいた。
二つの長いおさげをぶらさげた女の子は結崎ひよの。新聞部長の清く正しく美しい乙女と本人は言ってるが本当の所はよくわからない。
もう片方のショートカットの女の子は蟹沢きぬ。対馬ファミリーの紅一点である。
この二人はたまたまスタート地点が同じだったということで即座に情報交換に移り、
こうして仲良く話していた。

「はぁ……鳴海さんもやっぱり巻き込まれていますし。鳴海さんったらヘタレさんですから早く捜さないと。
 お互い大変ですね、ヘタレの知り合いがいる者同士」
「おう、もうやんなっちゃうよな。ボクもレオの世話でかなり苦労してんしよー」

お互い、この殺し合いに乗ってないとわかっているからリラックスして談笑している。
一人よりは二人の方が安心するのだ。

「なぁ、ひよりんー」
「何ですかー」

きぬが何かを見つけたのか声を出しひよのを呼び、指を指す。

「あの光ってさ、ボクらが持ってるランタンと同じ光じゃね」
「みたいですねぇ。どうしますか?私としては様子見とした方がいいと思いますけど?」

遠くにある目の前の光を前にひよのときぬは相談をする。
あれが二人にとって有益か、それとも不利益か。
もし有益ならまた一人仲間が増え、情報も増えることとなる。
その反対で不利益の場合は最悪、命がなくなるだろう。

「あーもう!ごちゃごちゃ考えんのはやめだー!ひよりん、ボクは行くぜ!
 大丈夫さ、こんなふざけたゲームに乗る奴なんかいねぇって」
「あ、ちょっと!!待って下さい、蟹沢さん!」

もし乗っている人なら、とひよのは呼びかけるがきぬは聞く耳持たず。
そのまま、光の方へ飛び出していった。
ひよのもそのまま放っておくわけにはいかず、きぬの後を追いかける。

(蟹沢さんはああ言ってますが、このゲームに抗う人はそんなに多くないと思います。
 こんな状況で平常心を保てるのは並ではありません。
 私や蟹沢さんはあの首が飛ぶとこをはっきりと見ていないから大丈夫でしたが……
 まともに見た人は……狂っているのかもしれません)

ひよのはきぬを追いかけながら頭の中で自分なりの考察を続ける。
きぬと違ってひよのはそこまで楽観的じゃない。
むしろ、このゲームに乗る人は多いんじゃないかとまで考えていた。
ここでは法律も何もないのだから。いくら人を殺しても罪にはならない。
最後まで生き残ることが最優先なのだ。

(私の知り合いもそうだ。鳴海さんは乗らないとして、ブレードチルドレンの四人、
 特にラザフォードさんと理緒さんの二人は鳴海さんを生かすためにこのゲームに乗る可能性が高い)

ブレードチルドレンの中でも特に歩に期待している二人のこと考えると、
むしろ乗らない方がおかしいとしかひよのは考えられない。

この二人はある意味かなり“キレる”。味方にするとかなり心強いが、敵になると最強の敵と言っても過言ではない。

内心の恐怖を打ち消すようにひよのは知り合いの動向の推測を続ける。

(浅月さんと火澄さんは五分五分。浅月さんは亮子さんがいるから乗らないかもしれない。
 でも裏を返せば、亮子さんを外敵から護るために、最後の一人を亮子さんにしようと殺し合いに乗る可能性も否定できない。
火澄さんも同様。胡散臭いです。
亮子さんは安全だと言う可能性は極めて高いけど、ここで何が起こるか……)

結局のところ、歩以外は全員怪しいと結論づけてしまったひよのはクスっ、と薄い笑みを浮かべる。

(これは誰にでも至れる推理。おそらくは鳴海さんも同じような推論に至ってる可能性は極めて高い。
 やっぱり直接会ってみないと信用できないものですね。
“コインが裏返るように”、この島ではね)

そんなことを考えているうちに光に近づいていたことにひよのは気づく。
相手の姿はまだ見えない。

「おーい、オメーも当然乗ってね――」

突然、相手の光が掻き消えたのと同時にきぬの言葉はそこで途切れた。
ひよのは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
だが、それも少しして直ぐ気づく。

「蟹沢さん!っ!」

ヒュッと風切り音が鳴ったのと同時にきぬの頭に何かが刺さった。
それが何かとまでひよのはわからなかったが。
ドタっ、と音を立ててうつ伏せに倒れ、動く気配はもうない。
だれがどう見ても即死である。
結論としてきぬはこの島で生きていくにはあまりにも甘すぎたのだ。
その結果、無残な骸と成り果てたのである。

(逃げないと!この暗闇では相当近づかないと、私がどこにいるかわからないはず。
 蟹沢さんはランタンを持っていたからその明かりで狙われやすかったけど。
 私はランタンを持っていない。逃げ切れる!)

ひよのは即座に踵を返し草原を駆け抜ける。
方向などどうでもいい。ただ襲撃者と反対方向であればいい、と思いながら。
その考えも直ぐに無駄になるのだが。

「っ!な……んで……」

襲撃者はひよのを逃しはしなかった。
再び風切り音とともに何かが飛んでくる。飛来物は見事にひよのの足に何かが刺さる。
クロスボウの矢だろうか、膝に深く刺さり簡単には抜けそうにない。
これでは走るのはもちろんのこと、歩く事すらままならない。
完璧に詰みである。

「お前は……」

襲撃者の正体。暗闇の中から出てきたのは。

「……ラザフォードさんですか……これはやられま、したね。
 何でしょうか、こん、な、か弱い乙女にそんな物騒なもの、を向けるなん、て失礼ですね。
 女性の扱いが、なってないです、ダメダメです」

アイズ・ラザフォード――ひよのが危険視していたブレードチルドレンの一人である。
ひよのの悪い予想は見事的中したのである。

「ナルミアユムといつも一緒にいる……」
「結崎、ひよのです。で、なぜこのような?生憎とまだ、私は死にたく、ないんですよ。
 この乙女の足を、傷つけた責任、どうとって、くれるんです?
 こう見えても、忙しいんです、私は」

名前がなかなか頭の中から出てこないのか、頭を抑えて思い出そうとするが、ひよのがそれを遮り問に答えるよう言い放つ。
ひよのの呟きは続く。

「疑って、ますね。本当に忙しいんですよ?鳴海さんを捜さなきゃいけなくて、
 フォローもしないといけなくて」
「それで?」

あいも変わらずひよのが続ける呟きに嫌気がさしたのかアイズはため息を重く吐きながら返答する。
銀髪の前髪から覗く水色の目がそれを訴えているように。

「ラザフォ、ードさん、あえて、聞きますが、なぜ殺し合い、に乗っている、のですか?
 仲間を殺してでも生きたいと?」

こう質問しているうちにも矢が刺さったひよのの膝からは血が止めどなく出ている。
そのせいかひよのの口調は途切れ途切れだった。

「違う!……っ!ナルミアユムを最後の一人にするためだ」
「やっぱりですか……」

語気を荒げ、答えるアイズにひよのはやれやれと息を吐く。

「あなたは、自分が生きたいか、ら殺し合いに乗、るよう、な人じゃない。
 ハァハァ……カノンさんのためにあなたは乗っている」
「俺は……!」
「人の話は最、後まで、聞くものです、よ」

癇に障ったのか少し目がつり上がりそれに反論しようとするがひよのにやんわり止められる。
アイズは手に持ったクロスボウをひよのに向けて撃とうとするが寸前で止める。
どうせ死ぬのだ、最期に全ては聞いてやろう、と考えて。

「それで私と、蟹沢さんを撃ったんで、すか。頭にかけて、いる暗視ゴーグル、があるから、暗闇でも狙いを定めて撃てる、
いやはや、大したものです、ねえ」
「……」

ひよのの軽口を軽く無視し、目でさっさと喋りたいことがあるなら全て話せと睨む。
ひよのもこの視線を受けてつらつらと語りだす。

「カノンさんのため、確かに鳴海さんは“希望”ですね。そんな鳴海さんが、ここで死んだら……
 カノンさんの救いはなくなってしまうから。そうじゃ、ないですか?
鳴海さんのお兄さんである“鳴海清隆”のことは全く信用してなさそうですしね」

まくしたてるように喋るひよのにだんまりを決め込むアイズ。
だが、図星を言い当てられたのか目線がさっきよりもつり上がっている。

「そうだ、全て正解だよ。これで満足だろ?なあ、ユイザキヒヨノ」
「待って下さい、最期に遺言でもお願、いします、」

喋るのがますます辛くなってきたのかひよのの声も小さくなっていく。
死が近づいている証拠だ。

「――――――」

ひよのの遺言への返答は風切り音、手向けは寸分狂いなく頭に刺さった矢、屍が二つに増えた。



◆ ◆ ◆



まずは二人。順調な滑り出しと言った所か。だけどまだまだこれからだ、焦ってはいけない。
ユイザキヒヨノの話はほぼ正解だった。嫌になるくらいに。
いいさ、こうして殺せた。殺してしまえばただの肉の塊なんだ。

終わったんだ、ユイザキヒヨノは。
それにしても遺言とは……ナルミアユムに会えたら伝えるべきか伝えないか。
俺はこのゲームに乗っているいわば、“ハンター”だ。
のこのこ会っていいものだろうか。

まあ後々考えればいい。今は。

この身は全て、カノンの為に。

カノン。

お前を呪いから解き放ってやるから。

“希望”を紡いでみせるから。

その時俺は側にはいないけど。

生きてくれ――

―――――


【結崎ひよの@スパイラル ~推理の絆~死亡】
【蟹沢きぬ@つよきす死亡】




【A-3 /1日目深夜】

【アイズ・ラザフォード@スパイラル ~推理の絆~】
【装備】:コンポジット・ボウ(28/30)、暗視ゴーグル
【所持品】:支給品一式×3。不明支給品2~7
【状態】:健康
【思考・行動】ナルミアユムを最期の一人にするために殺し合いに乗る
1:迅速に敵を狩る
※A-3に蟹沢きぬと結崎ひよの死体が放置されています。

【コンポジット・ボウ】
専用の矢を板ばねの力で、これに張られた弦に引っ掛けて発射する武器。
引き金を持ち、狙いが定めやすい。

【暗視ゴーグル】
暗闇で可視状態になるための物。暗い場所で使いましょう。



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